この日も前日に続き門下生コンサート。なんですが、IRCAMのコンサートが被ってるのを当日まで完全に忘れていたんです。まあ記事を書いてる時点でバレてるんですが、僕はそっちを選んだのです。2日目は知ってる人はアルテュールだけで、彼の作品は聴いてみたかったのですが、オール新作のコンサートを見逃す訳にはいきませんからね。「いや門下生なら絶対行かなきゃダメなんじゃないのか」って思われるかもしれませんが、そもそも前日も僕のクラスで来てたのは僕とユンだけでしたからね。皆興味なさすぎィ!
昼頃にルイに「IRCAMのコンサートあるのすっかり忘れてたわ。終わった後でそっちの片付け手伝いに行くね」と言ったら「なんだよIRCAMなんて退屈に決まってるじゃないか、この裏切り者!」と罵られました。前にも書いた通りドクは反IRCAM派の人なので、彼の生徒たちもその思想の影響を受けてるわけですね。そういうところは日本っぽい感じですが、別に世界中変わらないのかもしれません。
まあ正直それはどうかと思うんですよね。先生は別にいいんですが、僕たちまでわざわざその真似っこをする必要はないわけで。なんだかんだ言ったってIRCAMはエリート集団なわけですし、(少なくともフランスの)アカデミズムの中心がそちらにある以上、注視する必要はあると思うのです。もちろん僕だって権威主義はクソ食らえだと思ってますが、それと同時に目を背けるわけにもいかないのも確かです。ウメハラの言葉じゃないですが、自分で決めるという心持ちを忘れないようにしたいものですね。
それでコンサートが終わったのが23時前でしたが、一応ルイたちの方へ行ってみるとちょうど片付けが終わりかけの頃でした。
ルイ「おお間に合ったね。ちょうどいいタイミングだったよ。コンサートはどうだった?」
僕『いやそれがさ、予想に反して結構良かったよ』
「予想に反して結構良かった! なんてこった、ドクに報告しよう」
『なんでだよ! ややこしくなるでしょ!』
その後ドクにチクってるルイを小突きつつ、片付けを無事に終えました。
ルイ「この後SuperSonicに行かない?」
僕『え、また!? まあいいけど』
「その前にどっかで腹ごしらえをしよう、バーガーキングに行こうか」
パリにもバーガーキングは結構あるみたいです。うちのすぐ近くにも一軒ありますし。日本ですら行ったことないので初体験ですね。
そこへ向かう途中は僕があまり話したことない上級生の女の子たちも一緒でした。フランスでは両頬に1回ずつキスをする挨拶が一般的ですが、いやそれは仲の良い人同士だけだと思っていたら、別れ際に女の子たちが馴染みのない僕にもしてくるのでちょっとドキドキしてしまいました。まあ溢れ出る童貞感をひた隠して紳士的に振る舞ったつもりです。
バーガーキングには僕とルイとアルテュールとアルの彼女の4人で来ました。アルの彼女はシュウという中国人です。この前のルイの告白の一件があるのでどうなることかと内心ドキドキでした。
僕『ああ、結構美味しいね』
ルイ「そうでしょ。マクドナルドとどっちが好き?」
僕『こっちの方がいいよ』
ルイ「ほらアル聞いたか、やっぱり皆そうなんだよ」
アル「えー大して変わんないよ」
なんてたわいない話をしてたはずが、いつの間にかアメリカの死刑やら拷問やらの話になってました。死刑制度がどうこうとかの真面目な話ではなくひたすらグロい話だけです。いや別に男どもだけなら全然いいんだけどさ、彼女がいる前でよくそういう話をするもんだなと思いましたよ。案の定すごく退屈そうにしてるし。
話してるうちに強い雨音が聞こえてきてすぐに外には出られそうになかったので、しばらく店で待機していたら結構遅くなってしまいました。さてSuperSonicに行きますかとなるところが、僕も含めて皆結構お疲れの様子だったので、結局ここで解散することに。時間は2時過ぎでした。
僕『じゃあ僕はメトロで帰るかな』
アル「いやいや、金曜日でもメトロは2時までしかないよ」
『うそーん!』
おいまたかよとガックリきてしまいました。しかも今いるバスティーユから最寄りの深夜バス停までは結構距離があるんですが、ルイの家の方向に近いということでバス停まで一緒に来てくれることになりました。アルと彼女はタクシーで帰るようです。
というわけで、小雨の降るパリの夜道をルイと散歩です。途中でセーヌ川を渡りました。
『おお綺麗だね。ロマンチックじゃん』
「この道懐かしいなあ。去年だったかな、冬に大雪が降ったんだよ。一面ずっと真っ白でさ。それで雪を丸めてボールを作って遊んだりしたんだ」
『そうなんだ。それ日本では「雪の戦争」って言って、子供の定番の遊びなんだよ』
「いいねその名前! 確かにその通りだ」
『自分は北海道だからさ、雪なんてあまりにも日常的だけど、ルイはコロンビアだもんね』
「そう、こっちに来て初めて見たからね。興奮したよ」
『さっきのアルの彼女、シュウだっけ。確かに可愛い子だったね』
「ん? ああ、あれは元カノなんだ。だけど今でもああやって付き合ってる風なんだよ」
『はえ!? そうだったのか!』
僕は盛大に勘違いしていたんですね。アルの現在の彼女はアンジェという娘で、ルイが気に入ってるのもそっちの娘のことだったようです。
「この前アンジェとアルが一緒に寝てて、朝アンジェが起きたらアルのスマホにメッセージが来てたんだって。シュウから。そしてアルが起きたらアンジェがぽろぽろ泣いてるの。どうしたのか尋ねたらそのメッセージの画面を見せられて、「いやいやこれはただスタージュ(職場体験)で知り合っただけの娘で〜」なんて言ってその場は収まったらしいけど、まあアンジェはそのときに全部察してると思うんだよ。だけどアンジェは結構盲目的だから、そういうことに目を背けようとしてる節があるね」
『はえー。まあアルもなかなかやる男なのね』
「あいつは天然でそういうやつなんだよ。なんていうか、人の機微に疎いというか。いや別に酷いやつだというわけじゃないんだけど」
『わかるよ。彼のキャラクターってことね』
「そうそう。でもそのうち刺されないか心配だけどね」
その後バス停に着いた後もバスが来るまで待っててくれて、僕が持ってきた日本酒を来週末に飲もうと約束をして別れました。椅子が空いていたので座っていたら、結構疲れていたのでうとうとしてしまったんです。そしたら「終点〜終点〜」というアナウンスが聞こえて「うそだろ!?」と飛び起きました。僕は反対方向のバスに乗っていたようです。
『(ルイにメールで)やっちまった。バス反対方向だったわ。今パリ南東部郊外にいる』
「うわー、ごめんよ、全然そういうの考えてなかった。大丈夫?」
『いやいや僕の不注意だから気にしないで。すぐバスも見つかるよ』
僕の家がパリ市内北西部なので完全に逆方向の位置に来てしまったわけです。その後ちゃんと家方向のバスで戻ったのですが、家に着いたときにはすでに5時前でした。なんていう無駄な時間を……
そんなことやってるからその後地獄を見る羽目になるのですが、それはまた次回。