『荒ぶる季節』の英語翻訳はどうよ。 その1

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現在放送中の『荒ぶる季節の乙女どもよ。』は僕が今期一番楽しみにしている作品なのですが、第1話評価で書いた通り、この作品の外国語翻訳はちょっと難しそうで興味があるので、実際に英語翻訳を見て味わってみようというのが今回の趣旨です。

以前にも同じ企画で『かぐや様は告らせたい』のちんちん回の翻訳を鑑賞したことがありますので、興味のある方はそちらもご覧ください。

ちんちんと翻訳の妙技
ライブリアクション、という文化をご存知でしょうか。 今やアニメは完全に世界文化となり、日本制作の作品と言えど日本語圏のファンよりも非日本語圏のファンの方が遥かに多いのが現状です。そしてファンならば作品について語りたくなるのが人情という...

 

さて早速検証に参りたいのですが、『荒ぶる』は残念ながらクランチロールで配信されていません。他にどこの配信サイトで英語字幕版が見られるのかは僕にはわからないので、前回のちんちん記事でも紹介した、ライブリアクション動画の英語字幕を参照しながら見ていこうと思います。

さすがに今回は本編を見ないと面白くないと思うので、まだ見てない方は是非見てみてください。特に第1話は素晴らしいクオリティです。PrimeVideoはこちらから

 

まず作品タイトルの英語版は « O Maidens in Your Savage Season » です。ここでの O は、フランス語の Ô と同様、聖書や詩などで使われる感嘆の表現で、日常的なOhと差別化しています。「おお神よ」の「おお」ですね。これでタイトルの「どもよ。」という情感を表現しているわけです。

では早速第1話、「豚汁の味 “The Taste of Her Pork Miso Soup” 」の本編を見ていきましょう。

 

菅原氏「少女のその白い肢体、その下腹部の柔らかな茂みの前に、私は跪いた。顔を埋めると、青草の香りが鼻をぷんと突く。私はその茂みに分け入り、彼女から流れる甘美な汁を、余さず飲み干した」

«”Her skin was pale white. I knelt before the soft thicket sprouting upon her lower abdomen. I buried my head in it, and the scent of green grass filled my lungs. Then, I parted her lushness, and drank every last drop of the sweet juices pouring forth from her.”»

冒頭の菅原氏による朗読の場面。knee(ひざ)からkneel(跪く)が派生し、過去形がknelt。abdomenはお腹の医学用語っぽいかたい言い方ですが、lower abdomenで性器を暗喩しています。

 

曾根崎先輩「猿と豚の異種格闘技戦って趣ね」

«As nauseous to witness as apes and pigs brawling.»

チャラい会話を交わす男女の生徒たちを揶揄する曾根崎先輩のセリフ。最初 As nauseous as to witness〜 の誤りではないかと思ったのですが、「猿と豚の喧騒を目撃するくらい不愉快」と「猿と豚の喧騒くらい不愉快な連中に出くわした」という違い、で合ってるんでしょうかね。いずれにしろ、「異種格闘技戦」のニュアンス(どうせ獣みたいにヤりまくってるんだろうという侮蔑)を短く翻訳するのは難しいようです。

 

もーちん「うちのクラスの男子たちが噂してたよ。掃き溜めに鶴だって」
和紗「なんという……ズバっと……」

«All the boys in my class were talking about her. They called her “the crown jewel of the dung heap.”»
«Jeez, that’s… harsh.»

「掃き溜めに鶴」に相当する英語のことわざは存在しないようで、なのでこれは翻訳者の創案ですね。harshはキツい、厳しいという感じ。

 

和紗「知ってる? 悪口言う子たちってね、本当の本当にプークスクスって言うんだよ。プークスクスって」

«Fun fact, girls who say mean things actually just snort and laugh. They just snort and laugh…»

これは元の表現の「ネタ感」が伝わりづらいものなので難しいですね。翻訳はちょっと深刻なニュアンスになっています。fun factは「〜にまつわるちょっとした小話」などで使う表現。

この後の本郷先輩の「私の豚汁を飲み干して」のシーンはライブリアクションで結構ウケてました。さていよいよ本題。和紗が「破瓜」の意味を辞書で調べるシーン。

 

 

このカットで上部に、

Note: Read separately, the kanji equate to “split gourd”
Read together, it means “deflower.”

と注釈が入っています。「漢字を分けて読むとそれぞれ切る、瓜、という意味だが、一緒に読むと処女喪失を意味する」ということです。

ファンサブ(Fun Sub:ファンが自分たちで作成した字幕を貼り付けたアニメ本編動画。もちろん違法)の時代はこういう注釈が入るのはよくあることでした。というのは、単に作品を楽しむだけじゃなく、翻訳が難しい文化や概念をも可能な限り理解したいと思うのがファンだからです。ですが公式翻訳が主流になると、こういう注釈はぐっと減りました。まあ当然です。我々が洋画を字幕で見るときも、注釈が入ることは滅多にないでしょう? 本来字幕というのは注釈なしでも理解が通るように訳すもの(妥協するもの)だからです。

ですが今回の場合はこの後のネタに絡んでくるので、仕方なく注釈を採用したのだと思われます。こういう所の処理が知りたくて今回の記事を書こうと思ったのですよ。

 

 

 

和紗「破れた、瓜? (辞書をめくって)破瓜、女子が初めての性行為を体験し、処女膜を破損すること。あるいは処女喪失の文学的表現」

«A split… gourd? “Deflower.” The perforation of the hymen upon the first act of sexual intercourse. To deprive a woman of her virginity.»

こういうことです。まあ確かにセリフとして「破れた、瓜」と言ってる以上、注釈を出す以外に方法はなさそうですね。

ちなみにこの後の回想での「ちょんまげー!」は、«Samurai hair!» です。リアクションの面々は大爆笑だったのですが、いやでも絶対ちょんまげのイラストを挿入してほしかったなあ。

 

本郷先輩「そるこ先生今回はベタだねえ」
曾根崎先輩「ちょっとそるこをバカにしないで! やっぱベタは重要なのよ!」

«Going for a cliché this time, huh.»
«Hey, don’t make fun of Soruko! Clichés are important!»

cliché(クリシェ)はフランス語です。意味は「陳腐な決まり文句、紋切り型」、つまりベタってことですね。フランス語では名詞としても形容詞としても使われます。

ついでBパート。死ぬまでにセックスがしたいという菅原氏に対しての反応。

 

曾根崎先輩「エロスは概念なのよ! そういう形骸的なものじゃ——」
菅原氏「はい。私が求めているのは、概念ではなく出し入れの方です」
曾根崎先輩「出し入……!?」
«Erotic words merely represent an idea, not something with such little subst——»
«You’re right. I don’t want an idea, I want actual penetration.»
«penetra—?!»
penetrationは貫通、浸透。確かに直接的で生々しい言い方なのですが、やはり原作の「出し入れ」という語感は絶妙だと感心させられます。まあしかしここもリアクションではウケていましたから、翻訳としては成功なのでしょう。

その後終盤まで飛んで、泉のオナニーを目撃する和紗リアクションの面々は大絶叫です

 

 

泉のもとから逃げ出し、そのまま街中を走る和紗が、目に入る看板すべてが性的に見えるシーン。

「中華 萬珍軒」が Big Wang’s Chinese Restaurant
「パチンコ」が Dick’s Pachinko
「味自慢 あげまん」が Hot Meat Buns となっています。

Bunsはハンバーガーのバンズのことですが、俗語でケツという意味もあります。先ほどのファンサブの話をするなら、こういう所で本当の意味のあげまんの注釈を載せたりするのがファンサブのスタイルです。なのでこれはあくまで字幕翻訳スタイルでありながら上手いやり方、という感じですね。実際ここの字幕は1秒以下しかないので一瞬で読めるネタにしなくてはいけません。ファンサブと字幕の違い、これでなんとなくおわかり頂けるかと思います。

 

走り疲れて涙ながらに嘆く和紗

 

 

和紗「無理だよぉ……無理! だってあんなの、絶対入らない!」

«No way… No way! That won’t… That won’t fit in there!»

その後電車が通過して、

 

和紗「あ……入った」

«It fit.»

いや本当に名シーンです。ここもウケてたのは嬉しかったですね。この後「私、性に振り回されたくないよお!」(I don’t want sex to take over my life!)と泣き叫んで第1話終了です。

 

本当は第1話から4話くらいまで一気に紹介する予定だったのですが、すでに結構な文量になってしまったので今回はここまでです

さすがプロの仕事だけあって翻訳は全体的によくできてると思うのですが、原作から担当している岡田麿里の絶妙で繊細な言語表現のニュアンスをうまく伝えるのはやはり難しいなとも感じました。「菅原氏」も Miss Sugawara となってるわけですが、こういう訳しようもない言葉遊びに多く彩られているのが本作で、僕もそういった点がこの作品の大きな魅力の一つだと思っています。くだらないダジャレとかではなくね。

 

さて第2話以降、特に「えすいばつ」関連がどう翻訳されているのか、とても気になるところですね。続編記事も乞うご期待。