ツール・ド・フランス2019 最終ステージ凱旋門【Tour de France 2019】

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7月28日、ツール・ド・フランス2019の最終ステージ、シャンゼリゼゴールを観戦してきました。以前日記にも簡単に書いたのですが、紹介しきれなかった写真が沢山あるので、今回改めて記事にしました。

日記はこちら。

7月28日(サッカーとツール観戦)
昨日28日はツールドフランスの最終レース、シャンゼリゼゴールの日でした。 正直申し上げますと僕はロードレースはあまり興味がなかったのですが、最近日本でも『弱虫ペダル』の影響もあってか、自転車人気がかなり高まってきているのは知っていました。 ...

 

さて、当日の写真を載せる前に、そもそものロードレースの話、ツールの面白さや問題点、そして最終日に至るまでの今回のツールの流れなどをお話ししようと思います。まあせっかく付け焼き刃で勉強したので自分のための備忘録みたいなものです。つまり素人によるド素人向けの解説なので、生暖かい目でご覧くださいな。間違ってる点などあれば是非お知らせください。

最終日の写真だけ見たい方は、次のページへすぐ飛んでください

 

さて、ではツールの魅力と問題点をまず見ていきましょう。

 

ツールの魅力と問題点

1953年のツール・ド・フランス、第13ステージ

自転車ロードレースにおける最も大きな大会は、5月のジロ・デ・イタリア、7月のツール・ド・フランス、9月のブエルタ・ア・エスパーニャの3つで、これらを合わせてグランツールと呼んでいます。しかしその中でもツール・ド・フランスはオリンピック、ワールドカップと並んで世界3大スポーツイベントと呼ばれるほど知名度も露出度も抜きん出ているため、ロードレースの最高峰と言えるでしょう。僕のように、ロードレースに全く興味がなくても、ツール・ド・フランスの名前だけは聞いたことがある人は多いはずです。

 

さて、にわかファンの僕から見たツールの面白さは、各人の目標がバラバラであるというのと、観戦風景の純粋な美しさ・楽しさの2点が大きいと思います。

個人戦であり同時にチーム戦でもあるツールは、基本的にはチームで力を合わせてエースを優勝へ導くことが目標ではありますが、総合優勝以外にもポイント賞や山岳賞、チーム賞などがあり、また各ステージの区間優勝だけでも選手個人にとっては大変な名誉なので、それだけを虎視眈々と狙う選手もいます。そうやって各選手各チームが様々な思惑の中で複雑なレース模様を展開していくので、それを長い期間をかけて追っていくのが面白い、と僕は思います。

「すげー速い選手がずっと1位をキープしていればずっと区間優勝だし、ポイントもクソもねーじゃん」って当初は僕も思っていたのですが、もちろんそんな甘い世界ではありません。総合優勝を狙おうとすると、スタミナやトラブルリスクの面などで勝負に出られる場面は自ずと限られてくるので、そうじゃない選手にポイント賞や山岳賞、区間優勝を狙うチャンスが生まれるように上手くルールが出来ているのです。レースの最初から最後まで1位をキープし続けるのは基本的にはあり得ませんし、ましてやそれが数日間も続くなど、ということです。

 

そして、レースはそのほとんどが地方の山岳や田園風景の中で行われるので、現地観戦にしろテレビ観戦にしろ観光気分でレースを眺められるわけです。やはりこれこそがロードレース、特にグランツールの最大の魅力と言えるかもしれません。しかしこれが同時に大きな問題点でもあるのでこれは後述します。

今回のツールは第14ステージがJ SPORTSによりniconicoで生放送されたのですが、そのキャプチャを少し紹介しましょう。

 

 

 

 

 

レースでは選手の近くのカメラ撮影の他に空撮ヘリが常に飛んでいるので、そのタイミングに合わせて地上絵を作ったり面白いアクションをしたりする人が沢山います。そしてこのように走ってるコース近くの風光明媚な景色を紹介したりもしているので、長いレースでも映像としては飽きないようになっています。2013年がツール・ド・フランス100周年の年だったのですが、今年はマイヨジョーヌ(その時点での総合タイム優勝者が着る黄色いジャージ)創設100周年の年なので、その関連の地上絵が沢山ありました。

 

 

今年は珍しくフランス勢が大活躍している……のが理由なのかはわかりませんが、この日はマクロン大統領も応援に来ていました。

これは実況・解説つきの映像で見た方がずっと楽しいです。来年また無料放送をやってくれるかもしれないので是非見てみてください。来年までにniconicoが潰れていなければ

 

さて魅力を紹介したところで、ツール……というよりロードレース全般の大きな問題点についてですが、これは以下の映像で詳しく解説されています。そんなに長くないので一度ご覧になってみてください。

 

 

かいつまんで話すと、ロードレースでは運営だけで黒字経営できているチームは世界に一つもないこと、その理由が他のスポーツでは当たり前の入場料収益と放映権収益が両方とも無いためであること、そのためこのままの体制で今後もロードレースを続けていくのはほぼ不可能だということです。

動画の中でも入場料を設定してみたらという話をしていますが、これだけ文化として根付いているものなのでそれは現実的ではないとは思いますが、観戦する人たちがわずかな金額でも寄付するようになる流れは作ることができる気がします。まあそれだけでどうにかなる程度ではないんでしょうけどね。それにしても、先述した通り世界3大スポーツイベントに参加するようなチーム(しかも一部ではなく全部)が、これほど歪な収益構造の上に成り立っているというのもすごい話だなと思うばかりですね。

 

そんなわけで、ロードレース界は現在大きな変革の時を迎えようとしています。今後世界の潮流がどうなっていくのか、それが日本にどう影響するのか、興味深いところですね。

 

注目選手

今回のツール・ド・フランスを追っていくにあたって知っておくべき選手を何人か挙げていきます。合わせてチーム名も覚えておくとより楽しくなるでしょう。

 

J.アラフィリップ……フランス。クイックステップ所属。紛れもなく今大会の主役。昨年のツールで山岳賞を獲得してはいるものの、今大会の優勝候補として彼の名前を挙げる人はほぼ誰もいなかった。

T.ピノ……フランス。エフデジ所属。フランス勢では一番の有力選手と目されていた。実際14ステージで優勝するなど好調だったが、終盤で悲劇が襲う。

G.トーマス……イギリス。チームイネオス所属。前年度覇者で今年の優勝候補筆頭。個人TTにめっぽう強く、山岳・スプリント共に隙がない。

N.キンタナ……コロンビア。モビスター所属。コロンビアの英雄。2013年にツール初出場で総合2位という大快挙。今でも20代だというのが信じられないほどの貫禄ある風貌で、日本では村長と渾名される。

E.ベルナル……コロンビア。チームイネオス所属。まだ22歳ながらキンタナ2世として期待を集める。イネオスにはフルームというツール4回制覇のとんでもない選手がいるのだが、今年のツール直前に怪我をして欠場。フルームの代わりにトーマスとのダブルエースを務めることになった。

P.サガン……スロバキア。ボーラ=ハンスグローエ所属。2012年のツール初出場でポイント賞であるマイヨヴェールを獲得し、その後史上最多タイの6回獲得を成し遂げたマイヨヴェールおじさん。今回また獲得すれば単独史上最多記録になるが果たして。

 

最低限この6人を覚えておけば大丈夫です。

 

近年のツール・ド・フランス

ツール・ド・フランスという名前でありながら、実は1985年以来フランス勢は優勝していません。それだけ世界各国のチームが実力をつけてきているという証左なのですが、特にここ数年はイギリスのチームスカイに優勝を独占されっぱなしです。

チームスカイは現在のロードレース世界最強のチームで、年間運営予算も世界一です(それでも50億円程度だし、その世界最強チームですらスポンサーが撤退し、チームイネオスに変わったというのが先ほどの動画の内容)。所属選手は他のチームだったらエース級の選手ばかりで、そんな選手たちが正確無比のトレインを組んでエースを押し上げると誰も勝つことができません。

 

一方のフランスはというと、優勝どころか2011年のT.ヴォクレール以来、マイヨジョーヌに一度も袖を通せてない(暫定1位の瞬間すらない)状況です。そんな中、先述したフルームの欠場があり、ピノに寄せられる希望はとても大きなものでした。それがまさか全く予想外の形で裏切られるとは誰も思っていなかったでしょう。

 

ツール・ド・フランス2019 大まかな流れ

 

今年はベルギースタート。第2ステージでチームタイムトライアル(一斉にスタートするのではなく、各チーム時間を空けてからスタートする。つまりチーム同士の駆け引きがない純粋なタイムアタック、のチーム版)を行った後、ランスを経てアルザスへ向かった後南下し、ポーで個人タイムトライアル(個人版)。その後ピレネーの山岳コースを経て、終盤のアルプス決戦へ。最後はいつも通りシャンゼリゼゴール。

第3ステージでアラフィリップが区間優勝し、2011年以来ようやくフランス人がマイヨジョーヌに袖を通しました。これだけで既にフランス中が湧いていましたが、その後一度奪われたものの、すぐにマイヨジョーヌを取り返し、堅調に差を広げていきました。

 

 

第8ステージ終了時の総合順位です。写っているのがアラフィリップ。ピノが3位、その下にイネオス勢(INS)が見えますね。

 

さて事件が起きたのは第13ステージの個人タイムトライアルです。この時点での下馬評は、「アラフィリップが1位をキープしてはいるものの、2位のトーマスは個人TTがめっぽう強い。果たしてどれだけ差を縮めてくるか、それどころか逆転されるのではないか」というものでした。

まずT.デヘントがかなり良いタイムで暫定1位をとった後で、トーマスがなんと22秒も差をつけて暫定1位に。これはいよいよ逆転が見えてきたと思われる中、アラフィリップがスタート。中間ポイントでなんとトーマスを上回るタイムをたたき出す。うそだろ、と誰もが思ってる中で、まったく失速せずにそのままラストスパートへ。そしてなんと14秒差をつけてトーマスを下し、区間優勝を果たしてしまったのです。

 

 

世界中が口をあんぐり開けて驚いたことでしょう。ここでアラフィリップ優勝に賭けていたらオッズがどれほどになっていたのか想像もつかないくらい、誰もが予想していなかった結果でした。これで一躍時の人になり大ニュースに。僕はこれをニュースで見たので、この日からツールの勉強を始めたのです。フランスはもう大歓喜でした。

 

 

トーマスに差を縮められるどころかさらに差を広げて1位をキープ。これはとんでもない大番狂わせを演じてくれるのではないかと世界中が期待したでしょう。しかし王者イネオスのメンバーも、「最も警戒すべき選手」としてマークを強める方針で、今後は甘くない展開になりそうです。

 

そして翌日が先述した第14ステージのniconico生放送だったのですが、冒頭のトークで解説の狩野智也さんは「20数年ツールを見てきたが、一番かもしれないくらいの驚き」と語り、司会の永田実さんも、「昨日は寝付けなかった」と言うくらい、やはり衝撃的だったのです。どのチームにとっても予想外の展開で、作戦を大きく見直す必要に迫られることになりました。

その後の山岳ステージでも健闘しているアラフィリップでしたが、第18ステージの山岳アタックで少し出遅れを見せてしまいました。トップを独走するキンタナとの差がどんどん広がっていったのですが、ダウンヒルになった途端にアラフィリップの真骨頂です。

 

 

ダウンヒルで攻めるのは大怪我のリスクが高くて難しいのですが、果敢に攻めて行って少しでも差を縮めていきました。しかしこの後ベルナルが更にトップとの差を縮めてゴール。それまで2位で追いかけてたトーマスを抜き、ベルナルが2位につきました。

 

 

第18ステージ終了時の総合順位。1位アラフィリップ、2位ベルナル、3位トーマス、5位ピノ、7位に圏外から一気にキンタナがジャンプアップ。何か、大きく流れが変わったステージでした。

 

そして運命の第19ステージ。

 

 

実は2日前に落車を避けようとして膝がハンドルにぶつかって、足に相当な痛みを抱えていたピノ。序盤から遅れてはいたのですが、途中でついにリタイア。ここまで快調な走りを見せていただけに、悔しさは相当なものでしょう。

そしてその後の山岳で、アラフィリップ、キンタナが失速する中、山岳ポイントをトップ通過したのはなんとベルナル。1分差でトーマスが通過し、2分差でアラフィリップ通過。この時点で1位はついに陥落、ベルナルが逆転を果たしました。やはりこういうところでチームのサポートが強いイネオスは有利になりますね。

しかしこの後は前日でも見事な追い上げを見せたアラフィリップ得意のダウンヒルです。ここで少しでも差を縮めたいところ、なのに。なんと雹が降り始め土砂崩れも確認されたため、レースの中断が決定される。各選手状況がつかめないまま、レースカーに乗せられることに。

 

 

非常に悔しそうにレースカーに乗り込むアラフィリップ。彼にとっては最悪のタイミングでの中断だったので、本当に運が悪かったですね。中断したためこのステージは優勝者なし、峠の通過タイムを総合成績に反映させることになったので、アラフィリップの首位陥落が決まってしまいました。このステージだけでフランス勢二人は悲劇に見舞われ、応援していた人たちにとっては絶望的なステージになってしまいました。

 

そして翌日第20ステージ。60キロ弱にコースは短縮。アラフィリップは集団から遅れ、順位をさらに落とすことになりました。ベルナルはトーマスと共にトップ付近でゴール。これで今年のツールはイネオス二人のワンツーフィニッシュ世界最強のチームスカイが今年も連覇を果たすという結果に終わりました。

 

 

「いやいやこの次が最終ステージだろ? なんでもう結果決まってるんだよ」

ごもっともです。これがツール・ド・フランスの特徴でもあるのですが、最終ステージはほぼ平坦な道のりで、つまりトッププロの世界においては差がほとんどつかないコースなのです。なのでよっぽど僅差でない限り、2位以下の選手がトップをまくろうなんて考えないため、ほとんど予定調和にレースが進んでいくので前日の順位が実質の最終結果になるわけです。(とはいえ過去にいくつかの事件はあります。wikipedia参照)しかし区間優勝を狙う選手はもちろん沢山いるので、シャンゼリゼでは全力で走る選手たちが見られます。

 

さて長くなりましたが、このようなドラマを経ていよいよ最終日の生観戦の日です。次ページからは実際に撮った写真を紹介していきます。