3月28日(第2回ラーメン会食)

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では前回の続きです。

授業が終わって休憩室で休んでいたらルイがやってきました。

ルイ「やあ。今日だけど、クラスメートのアルテュールも呼んでいいかな?」
僕『もちろん大歓迎だよ。すぐ行く?』
「今スタジオで作業してたところだから、片付けなきゃ。ここで待ってる?」
『いや、一緒に行くよ』

 

学校には楽曲制作や録音をするための部屋がいくつかあり、予約制でいつでも使うことができます。僕自身は録音も制作も自宅でいつもやっているので、まだ使ったことはありません。

 

『この部屋初めて来たよ』
「そうなんだ、もうここは僕の第2の家だよ。笑 ほら、私物も置いてるし。そうそう、是非見て欲しいものがあるんだ。Los Maricas っていうバンドのミュージックビデオなんだけど、日本のラーメンっていう曲でさ」
『ええ?笑』
「これ映ってるのは僕の故郷のボゴタなんだ。よく知ってる風景だよ」

 

そう言って見せてくれたのがこれです。1:11あたりで確かに「ラーメーノハポーオーン」と歌ってますね。

 

 

『いや面白いけどさ、なんでラーメンなの?』
「僕も知らないよ。笑 まあ辛い目にあったり落ち込んでるときにラーメン食べると元気が出るじゃない。そんな感じの歌さ」

そんな感じで多少談笑してから学校をでました。しかし今調べてみたらボゴタは大都市なんですね。人口800万人弱って札幌よりはるかに多いですよ。せっかくルイがいるのだから今度観光情報でも聞いておきましょうかね。

 

「今日はどの店に行くの?」
博多ちょうてんだよ。アカタショーテン(フランス語の発音)じゃないからね』
「ハカタ… ショ… チョーテン」
『そうそう、トレビアン』

 

博多ちょうてんは前に誕生日会のときに教えてもらった店です。ラーメン屋の集中しているオペラ地区にもあるのですが、今回は学校に近い2号店のレアールの方へ行きます。アルテュールが来るまで時間がかかりそうなので、先に二人で酒を飲みながら待つことに。バーに入っても良かったのですが、レアールに大きめのモノプリ(コンビニとスーパーの中間のような感じのチェーン店)があるので、そこで缶ビールを買って飲食コーナーで飲むことにしました。

 

「パリはこうして外で酒が飲めるのがいいよね。コロンビアだったら酔っ払ってすぐに殴り合いの喧嘩が始まってもおかしくないよ。だから禁止されてるんだけど、それでもみんな飲んでるくらいだから。中毒者が多くて困るよ」
『へえー、ルイはお花見って知ってる? 日本ではだいたい今の時期に桜が咲き始めて、それを見ながら酒を飲むっていう文化があるんだ』
「うわーいいねえ! やってみたいなあ」

 

海外では野外の飲酒が禁止されている国が少なくありません。ルイの言う通り何が起こるかわかったもんじゃないですから。それに桜がちょうど綺麗な時期に野外で快適に過ごせる地域も限られています。なので花見ができるというのは実に恵まれているのです。

 

『さてそれじゃあ、ルイの作品について話そうか』
「ああ、そういえば話してなかったね。どうだった?」
『面白かったよ。冒頭が随分間を開けながら素材を並べるだけだったじゃない。あれがよかった。なんか持続音でボーって始まったり、ちゃかちゃか細かい音を重ねて始まったり、そんな作品ばっかりでしょいつも。だから僕にとっては新鮮だった。あとは「覚えやすい」ってのがいいね。記憶に残りやすいかどうかっていうのは僕にとってすごく重要な要素だから。そういう構成面は良かったんだけど、ちょっと短すぎるというか、「あーこれで次はどうなるのかな」っていうところで終わってしまったのが残念だったね』
「あーうん、そうだね。それは僕も自覚してるよ。とにかく今回は難産だったから、なんとか形にするのが精一杯だった。一応次の作品の案も考えてるんだけど…」

 

その後ルイの作品アイデアを聞いて、次に僕のアイデアを話して、それが映像と音楽の関係にまつわるものだと言ったら Michel Sion の本を紹介してくれました。彼はフランス電子音楽分野の大御所の一人で、これまでにたくさんの本を出版しています。映像と音楽というテーマでの本も複数あるので、近いうちに必ず読もうと思います。正直なことを言うとおそらくほとんど役には立たないだろうなと思ってはいるのですが、何かのきっかけになる可能性は大いにありますから、色々当たってみるのが大事ですね何事も。

 

『色々紹介してくれてありがとう。さすがにこういうのは日本語翻訳されてないからね。ブーレーズの本だったらたくさん翻訳されてるから読んでるんだけど』
「へえ。ブーレーズ好きなの?」
『好き嫌いというより、重要な人だと思ってるよ。避けては通れないというか。そうそう、面白い話をしよう。僕が初めて先生に会ったときに、誰か好きな作曲家はいるのかと訊かれたから、「ブーレーズを尊敬してます」って答えたんだ』
「うわ、ほんとに!? それでそれで、どんな反応だった?」
『「そう、まあ結構なんじゃない」みたいな、そんな感じだったよ』
「あっはっは、それはすごいわ。よく言ったね」

 

実は僕の先生は反ブーレーズ、反IRCAM派として知られている人なのですが、初めて会ったときにはそんなこと全然知りませんでしたから。臆面もなくそう言ったわけです。まあしかしそれを知った今でも、別にまずいことをしたなとは全然思っていません。好みや思想が先生と近すぎるのは逆に危険だと思っています。単なる信奉者として終わってしまう可能性が高いですから。今後も僕は僕の思想や好みに基づいて先生や友達と議論を交わしていきたいですね。フランス語がもっと上達したら

 

そんな具合であれこれ話していたのですが、まだアルテュールが来る気配がありません。待つのは一向に構わないのですが、ラーメン屋は22時閉店で今20時半ですから、先に行って注文してようかという話になりました。

 

 

さて店に到着しました。賑わっていましたがまだ席はあったので一安心。メニューを眺めます。

『最初だったら、普通のとんこつか、とんこつ黒か、どっちかがいいと思う。僕は黒の方にするよ』
「じゃあ僕もそうしようかな。麺の固さは? これはバリタカ?」
バリカタね。もちろん好み次第なんだけど、博多のスタイルだったら普通でいいんじゃないかな。それよりも餃子だ。ここの餃子はなりたけより美味しいらしいから、是非とも注文しなくちゃ』

 

そうして、僕はとんこつ黒、ルイはとんこつ黒チャーシュー、あとアルテュールの分も含めて餃子15個を頼もうと決めました。

『ちょっと、日本語で注文してよ。了三が日本語喋ってるところ見たいんだ』
「なんだよそれ。笑 別にいいけど」

見たら店員さんはみんな日本人っぽかったので、普通に「すみませ〜ん」と呼んで注文することに。かわいらしいお姉さんが来ました。

『(日本語で)あー日本語でもいいですか?』
「(フランス語で)えっと、私日本人じゃないんですよね…」
『ああ失礼しました。えーっととんこつ黒一つと…』

なんという大恥

 

『いや参ったね。笑 僕には彼女は完全に日本人にしか見えなかったわ』
「案外わからないもんなんだね。パリだとコロンビア人にはなかなか出会わないけど、たまにすれ違ったりすると、結構わかるんだよね。実際に声かけてみるとほとんど当たるよ」
『すごいね、第六感ってやつだね』

 

そう言ってるところにアルテュールがようやく到着しました。ちょっと長いのでこれからはアルと呼びましょう。ルイとアルって並べるとこれもうドメカノですね。

 

僕『こんばんは、了三です。はじめまして』
アル「やあ。招待してくれてありがとう」
ルイ「彼はアルテュール。一番仲のいいクラスメートなんだ。彼はフランスじゃなくてアルジェリア出身だよ」
僕『そうなんだ。僕はアルジェリアってよく知らないから、色々教えてよ』
アル「いやー自分の住んでたところは田舎だし、特になにもないよ」
ルイ「伝統料理とかたくさんあるでしょ。クスクスもそうだし」
僕『クスクスは好きだよ。たまに食べてる』
アル「どんな風に食べてる?」
僕『どんな? っていうと…』
アル「ソーセージとか入ってる?」
僕『そうだね、いつも入ってるね』
アル「それは偽物だね。いわゆるフランス風クスクスってやつだ」
僕『え、そうなの!』

それは知りませんでした。寿司が好きだと言ってカリフォルニアロールを指してるようなものなのでしょうね。

アルのいでたちはなかなか独特です。この日は黄色いセーターにオーバーオールという、石ちゃんかな? というスタイルで来たのですが、それがよく似合ってるのがすごい。特徴的な天然パーマに、薄く青がかった瞳が印象的です。

 

話しているうちにラーメンが来ました。アルの分は後で注文したのですが、それもすぐに来ました。

 

 

 

僕『さあルイ、食べる前に何て言うか覚えてるかい?』
ルイ「えーと… なんだっけ、忘れてしまったよ」
僕『イタダキマスね』
ルイ「そう、それだ! イタダキマス」
アル「それはなんなの?」
僕『まあフランス語のボナペティみたいなものだよ。感謝の表現という意味合いもあるけど』
アル「宗教的なものなの?」
僕『そうとも言えるね。まあほとんどの人は宗教的だと意識して言ってるわけじゃないけど』

 

前回同様、箸とレンゲの使い方を説明した後で、いざ実食。あーなるほど、これはなりたけとずいぶん違いますね。

 

僕『これはこの前行ったなりたけとかなり違うね。これがいわゆる博多スタイルのラーメンってやつさ。細麺で、このスープの感じがね』
ルイ「なりたけは何のスタイルなの?」
僕『まあ標準というか、特にどこっていうわけじゃないかなあ。敢えて言うなら東京のスタイルって感じかな』
ルイ「あー、標準語のフランス語を「パリ訛り」って表現するみたいな感じね」
僕『それそれ。笑 その言い回しは日本にもあるよ』

 

確かに誕生日会のときに教わったように、博多ちょうてんの方が洗練されてるという意味はよくわかります。なりたけはダシというより油で攻める感じでしたが、こちらはスープのバランスがとても良いですね。あと餃子はほんとに美味しいです。僕は日本でも餃子を頼むときはラーメンと一緒に食べていくのですが、ルイとアルは二人とも一気に餃子を食べきってましたね。まあ美味しいかどうかは聞くまでもないってことでしょう。

ゴマが置いてあったので、擦り方を教えて好みで入れてねと言ったらアルがわっさわっさと入れてたのが印象的です。二人に「スープは最後まで飲む必要はないよ」って言おうと思ったのですが、その前に二人ともスープを飲み干してました。それぐらい、こってりであってももたれるような感じがないです。

 

僕『食べ終わったらゴチソウサマデシタ。ちょっと長いけどね、練習練習。ゴチソウ』
ルイ「ゴシソウ、ゴチソウ」
僕『サマデシタ』
ルイ「サマデシタ」
アル「ごちそうさまでした
僕『おお! びっくりした、すごくうまいね』

アルは箸もすぐに上手く使っていましたし、なにかとセンスのある男ですね。

 

その後会計を済ませ、ルイが頑張って店員さんにご馳走さまを伝えたら、笑顔で答えてくれました。そうですね、僕としてはなりたけと比べると博多ちょうてんの方に軍配を上げるでしょうか。なりたけはあれはあれでもちろん美味しいと思いますが、何回か繰り返し来ようと思えるのは博多ちょうてんの方ですね。餃子もおいしいですし。

 

その後ルイがビール飲もうよと誘ってきたので、吝かではないということでバーへ。

 

 

 

ここはウィスキーが売りのバーのようで、世界のいろんなウィスキーが置いてありました。もちろん日本のもあります。

ルイ「見て、あれ酒がおいてあるよ」
僕『いや、あれは日本酒じゃなくてウィスキーだ』
ルイ「日本はウィスキーもおいしいの?」
僕『そうだね、最近でも世界的な賞をとってたよ』
ルイ「そうなんだ、コロンビアのウィスキーはマズいんだよね。ビールのほうがずっと美味しいんだけど、でもみんな強い酒がいいから、まずいウィスキーでも売れてるよ」

 

ちょうど座ってるところに日本の地図が貼ってありました。ウィスキーの産地を紹介するものですね。

 

 

これがあったのでアルがいろいろと訊いてきました。

アル「ふぐってどこが有名なの?」
僕『よく知ってるね。下関っていう、この海峡のあたりが一番有名だね』
ルイ「(九州を指して)ここらへんの地域の人って、やっぱり人柄が違ったりするの?」
僕『そうねえ、なんというか、男性的って言えばいいのかなあ』
ルイ「マッチョってこと?」
僕『そうだね、九州の人はマッチョだね
ルイ「北海道は?」
僕『内気な感じかねえ。この大阪とかと比べると大人しいと思うよ』

アル「忍者って今もいるの?」
僕『もちろんいるよ
アル「女の忍者もいるって聞いたことあるけど」
僕『そう。女の忍者はクノイチって呼ばれてる。この店にいる人数なんて一瞬で殺せるよ(手をシュシュっとやる)』
アル「おー、シュリケンだね。クナイも使うんでしょ?」
僕『ほんとよく知ってるね。短い刀でね、今はそれをヤクザが受け継いで使ってるよ

アル「サムライってなんでいなくなったの?」
僕『1850年ごろにアメリカ人がやってきて、ペリーっていう人なんだけどね。彼の要求で日本が国を開いてから、西洋の文明に対応するためにいろんなものが一気に変わっていったんだ。それまでは200年くらい国を閉じていた。スペイン、ポルトガルのキリスト教徒がろくなことをしなかったせいでね』
ルイ「例えば?」
僕『一番の原因になったのは人身売買じゃないかな。そもそも布教すること自体が好ましくなかったから』
アル「スペイン人はいつもこれだよ

 

そんな感じで色々と話しました。アルの前の彼女が狂ってるという話やパリで数十年前まで流行していた風俗バーの話など面白いのは他にあるのですが、さすがにここに書くと色々怒られそうなので、男同士のゲスな話ということでご勘弁ください。

 

なんだか無駄に長々書いてしまいましたね。まあとにかく楽しい一夜でした。次はルイが美味しいメキシカンの店を紹介してくれるというので、それを楽しみに待ちましょう。