2019年10月〜12月期のアニメシリーズの、最終的な総評と感想を述べていきます。
第1話時点での評価はこちら、また評価基準についてはこちらをご覧ください。
MALはMyAnimeListの現時点のスコアと投票人数です。
以下、感想は完全にネタバレになるので、まず作品ごとの評価だけ紹介します。A評価以上のものは一度視聴してみるのを強く勧めますので、是非ご覧になってみてください。
今期最終評価はこちらです。
A+
B
放課後さいころ倶楽部
C
D
PSYCHO-PASS サイコパス 3(劇場版含む)
そして2019年秋期ヒゲメガネボウズ賞は、
です。
では各作品の詳細な感想を述べていきます。ネタバレ注意。
A+ BEASTARS (MAL: 8.38/81k)
(企画・キャラデザ・コンテ・演出・声:S、脚本・美術・音楽・OP:A)
——鼻腔が身体中の筋肉を震わせるのも、体が熱いのも、君を、感じるからだ! 本能よりももっと手前にある、俺を強くする、シンプルなわがまま!
——自分の獣を飼い馴らせ、レゴシ。それがこの世界の一丁前の男よ。
今期の大賞作。本当は年末年始に2019年のアニメ総括記事を書こうと思ってたんですが、時間がなくて結局やめてしまいました。でもそのときに年間最優秀作品にこれを選ぶつもりでした。それぐらい素晴らしい作品でした。
まずはキャラクターデザインと3Dモデリング。最近は3D作品も頻繁に作られるようになりましたが、やはり手描きと比べたときの弱点の一つはキャラクターの表情だと思うんです。味のある表情、何か含みを持たせたような顔の演技は3Dだとなかなか難しいので、どうしても定型的・記号的な表現にとどまってしまいます。なので一工夫しようと思ったらそれに頼らない他の演出手段を模索するのが定石で、以前のケムリクサ評でもそういう指摘をしたことがありました。
ところがこの作品ではむしろキャラクターの表情作りにものすごく気合が入っていて、その情報量が他の3D作品とは格段に違います。こういうところに技術的な勝算があったからこの企画を通したのかもしれませんし、画面分割の演出も「表情で語る」というコンセプトから生まれたのかも、と思っています。いや見事としか言いようがありません。
「目」はもちろん顔のパーツの中で最も表情を作りやすいので重要ですが、それだけじゃなくて喋る時の口の動かし方、歯や牙の見せ方、鼻筋や眉間の立て方など、細かいところまで神経を使ってるのがとても伝わってきます。パンダ先生なんかは黒目しかないはずなのに豊かな感情表現が出来ていて、見事ですね。この記事のサムネイルにしている、レゴシが絵の具をぶちまけるところの顔なんかも本当に良いですよね。第5話でハルがにんじんを食べてるときの顔や、第7話「なにこの状況!」のときの自分の耳を握ってバタバタしているところ、その後のジュノの「えええええ〜!?」の顔なんかも好きです。人間らしい感情表現と、その動物特有の顔の動かし方をうまく折衷させる技術が、やはり今作最大の見どころだと思います。いやもう良い表情のカットは多すぎて挙げきれないくらいです。
そして『宝石の国』でも見られた3Dならではのコンテやレイアウトも素晴らしかったです。第4話の舞台の大立ち回りや終盤の格闘シーンの大迫力は言うまでもないんですが、レゴシの目線からの一人称的なカットや、あとはキャラクターの顔の形でマスクした演出も多かったですよね。ああいうのは手描きだと難しいし効果が出にくいと思うので、良い演出だなと思います。第7話のバケツを持つレゴシをからかうハルのカットなんかも3Dならではですよね。先ほどから第7話への言及が多いですが、このエピソードはやっぱり完成度高いなーと思います。
そして声も大変素晴らしかったです。レゴシの小林親弘については第1話評でも既に語っていますが、そのときの期待に見事に応える、というより更にそれを上回っていく素晴らしい声でした。自問自答しながら逡巡したりする一方で、考えるより先に体が動いてしまったときの声や、本能が抑えきれない様子、そして時折見せるコミカルな調子など、どこを切り取っても隙がないです。彼以外にこの水準でレゴシ役をこなせる人が他にいるとは到底思えないくらいの、名キャスティングだったと思います。僕にとっては男性声優の中で今一番好きな役者かもしれません。
ハルの千本木彩花も良かったです。彼女は『カバネリ』の無名くらいしか知らなかったのですが、この作品でかなり好きになりましたね。なんと言ってもタンカを切るシーンが素晴らしくて、ハルのもつ「絶対に折れてやるもんか」という気の強さを見事に表現していました。一方でいたずら好きのからかうような声や、ベッドシーンでのセクシーな声など、彼女もまた多彩な表情のどこをとっても隙のない演技だったなと思います。
ルイ(声:小野友樹)やジュノ(声:種﨑敦美)も良かったですね。種﨑敦美はこれまでも何度か言及していますが、いや僕は本当に好きな役者なんですよね。今回はウラオモテのある優等生キャラですが、裏の顔を覗かせているときでも露骨に声の調子を変えたりせず、あくまで自信に基づく信念に則って行動している一本筋の通ったキャラクターとして見事に演じています。ともすれば紋切り型になりやすいところを、奥深く豊かなキャラに仕上げていました。
あと個人的にはクジャクのドームを担当していた室元気が好きでしたね。いわゆる「おネエ」キャラですが、全然わざとらしい喋りではなく、常に他者を気遣うような優しさが声からにじみ出ていて、特に目立つようなキャラではありませんがかなり気に入ってます。もちろん他にも素晴らしい役者陣ばかりで、全体的なレベルが凄まじく高かったです。これを監督自身が音響監督も務めてまとめあげてるって言うんですから、ほんと大したものです。
音楽もやはり良かったです。第1話の冒頭で流れるテーマの様々なアレンジや、最終話ED「月に浮かぶ物語」のアレンジ曲、第4話の楽屋裏シーンなどで使われる曲など、素晴らしいサントラがたくさんありました。いかにも凝っている作り、というわけではないのにこれほど効果的なサントラを生み出すところが神前暁の魔術ですねえ。僕も勉強させて頂きます。
最終話で続編の予告もありました。ここまではどちらかというと各キャラクターの個人的な内面や問題にスポットが当たっていましたが、ここから動物たちの世界の中で象徴的に描かれる大きなテーマに踏み込んでいくのだと思われます。とても期待できそうなので、まだ見ていない人は是非とも続編が始まる前に今作を見ておくことを強く強く勧めます。
これ買いました。実家に届いてるので、帰国したときの楽しみにしています。
B 星合の空 (MAL: 7.56/26k)
(企画・キャラデザ・作画:A)
この作品を見ていない人向けに軽く説明をしますと、最終話放映終了直後に監督がツイッターで「本来全24話で制作していたものが春の時点で急遽全12話放映に変更になった。しかし2年以上かけて構成して作画も進んでいたので、無理に全12話に再構成するのではなくそのまま制作を進めた」という旨の発言をしました。なので一応12話で一つの山場を描き終えてある程度のまとまりはついたのですが、最後の最後にとんでもない爆弾を残して最終話が終わったのはそういう背景があったというわけです。
この戦略の是非については何もわかりません。売り上げや反響次第で続編制作が決まる算段がついていたのかどうかもわかりませんし、その戦略としてこれが正しかったのかもわかりません。ただ個人的には無理やり12話で妥協してしまうよりは今回の選択の方が「作品としては」救われたかなと思います。これが1クールで収まるような構成でないことは一目瞭然ですし、視聴者を裏切るつもりで制作していたわけじゃないことも明らかですから。なのでただただ続編制作が決まることを祈るばかりですね。
というわけで、宙ぶらりんな結末を迎えた今作を最低評価する人が多くいるというのは当然のことですが、僕は先述したようにむしろ無理やりカタをつけるより遥かにマシだと判断したので、B評価にしました。
まず何よりもキャラデザと作画が良かったですね。主人公・眞己(声:花江夏樹)や紅一点・夏南子(声:峯田茉優)などを代表に中学生らしい生意気さが現れた表情がたくさん出てきますが、それを憎らしくも愛らしいところに落とし込めたのは見事なキャラデザの力によるところが大きいと思います。夏南子はほんと良いキャラでしたねえ。麻生太郎ばりに口がひん曲がってる表情がとても気に入ってます。声もよく合ってましたね。部員たちの描き分けを当初は心配していましたが、それも話数を追っていくうちにそれぞれの個性がちゃんと出てきたので、その点もうまかったですね。
そして試合の作画も、ソフトテニスという独特な動きをかなり丹念に描けていたのではと思います。途中で省力しているところはもちろんありましたが、手抜きだと感じる場面はほとんどありませんでした。ジョイ戦のところは若干怪しかった気もしますけどね。
脚本・シリーズ構成については、「登場人物全員が毒親持ち」というのは思い切った企画だなとは思いますが、それをやってしまうとどうしても紋切り型になってしまうのが痛いところですね。一つ一つの描写に時間がかけられないので、手早く説明するためにはその毒っぷりをわかりやすい形にしないといけないですから。でも実際に世に溢れる毒親ってのは「子供自身でさえそれほど自覚的ではない部分でじわりじわりと侵食していくもの」が実に厄介なパターンで、リアリティを追求するならそういうのを描きたいところですが、どうしても短時間では難しいですからね。ここら辺の戦略は続編を見てみないとなんとも言えませんが、今のところ手放しで賛同できる方針ではないかな、という感じです。
TBSの作品HPで監督のインタビューやメイキングについての特集があるので、興味がある方は覗いてみては。「思春期の象徴としてのソフトテニス」というのは本当に面白い目の付け所だなと思いますし、企画の方向性としては素晴らしいなと今でも思いますね。なので続編を是非とも実現させてもらいたいです。そして本編でも会長の本気のダンスを描いてほしいです。
B 放課後さいころ倶楽部 (MAL: 6.78/8.5k)
(キャラデザ・作画:A)
僕と同じように原作を知らずに第1話を見た人は「ああボードゲームを題材にした女子高生の日常ものか」と判断したと思うのですが、実は途中から「自分たちで新しいゲームを作る物語」だったというのが判明し、そこからかなり興味深くなりましたね。特にドイツからの転校生エミーが来て、彼女もまたゲームクリエイターを目指していると知った翠の葛藤が描かれて以降は、単なる日常モノにとどまらないちゃんと骨のある物語になっていると思います。
なんと言っても第9話が面白かったですね。「だるまさんがころんだ」から見える子供の遊びの特徴や、これをゲームとしてどう発展させていくか、「ご褒美」「駆け引き」という概念をどう持ち込むかなどを考えていく中で、ドイツボードゲームに通底する哲学みたいなものが伝わってくる興味深いエピソードでした。この回単独でも十分理解できるので、もし興味あれば第9話をいきなり見てみるのも良いと思います。回想で登場するかわいらしいロリエミーも見どころです。
第1話評で述べた通りキャラデザが良かったですし、作画も最後まで高品質で安定していたのは素晴らしかったですね。脚本・コンテはまずまずといった感じでしたが、全体的には良い作品だったと思います。恵まれたアニメ化だったのではないでしょうか。
C バビロン (MAL: 7.04/22k)
単独記事を上げているので、そちらをご覧ください。
D Fairy gone フェアリーゴーン (MAL: 5.92/24k)
単独記事を上げているので、そちらをご覧ください。
D PSYCHO-PASS サイコパス 3 (MAL: 7.65/23k)
この企画をサイコパスシリーズの続編としてやろう、というのがとにかく気に入らないです。「サイコメトラー」というタイトルにしたら露骨なパクりになってしまうからサイコパスの蓑に隠れてやろうって言うつもりですかね。それに「影の支配者によるゲーム」なんていう手垢のついた企画をなんでサイコパスの続編でやる必要があるのか、全然理解できません。まあ実態は逆なんでしょうけどね。つまりなにがなんでも続編を作りたいけどネタが浮かばないのでこれしか思いつかなかった、という程度の企画なのでしょう。
今回のシリーズがあまりに面白くないので第1期を見返してみたのですが、やはり第1期は改めて見ても名作でした。第1期の素晴らしい点はいくつもあるのですが、重層的なテーマがちゃんと一つの哲学、特に虚淵玄らしい思想に貫かれているところがいいんです。「拳銃とドミネーター」「生身とバーチャル」「紙書籍と電子書籍」といった二項対立を描くことで、現実社会の問題意識と作中のテーマという二つの歯車を噛み合わせるような企図が、今シリーズではまったく見られません。それがあるからこそ第1期の格闘戦にはただのアクションシーンにとどまらない特別な意味が込められていたものを、今回のアクションはただの見せ場作り以上のものはなにもありません。キャラクターデザインそのものも、設定としてのキャラクター造形も、第1期の魅力とは比べものになりません。
まあそれでも聞くところによればブルーレイの売り上げは悪くないようですから、企画としては成功したと製作側は思っているのかもしれません。でもこういう遺産を食いつぶすだけの企画はめぐりめぐって破滅の道だと僕は思っているので、評価はできません。
さて、3月27日に『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』が劇場公開され、それに合わせて編集版がAmazonPrimeでも公開されました。まあせっかくなので今期の総評が遅れたことにかこつけてその感想も軽く述べましょう。
まず第一に言いたいのは脚本・コンテが結構ひどいです。特にアクション関連のシーンの作り方・挟み方がひどい。単調で何の緊迫感もないので音楽で無理やり盛り上げようとしていますが、その音楽の使い方が余計に間抜けさを際立たせています。なんでそんなことになってしまったのかと言えばアクション以外の中身がなさすぎるからです。コングレスマンと内通していたイグナトフ、梓澤と取引した外務省など、もっと組織の内側での対立や葛藤を描けばアクションに頼らない緊迫感のあるドラマ作りができたはずなのに、どれもこれも発展させることなくあっさり片付けてしまったので肩透かしもいいところです。
終盤で梓澤がビフロストの正体を語る場面に至って「やっと中身のある内容が登場したか」と思ったら、「永遠に富を増やし続けるための必要な手順、だそうだ」ってそれ何の説明にもなってませんよね。そんなのでこれまで描いてきたドラの音で始まる闇のマネーゲームごっこの弁明になってると思ってるんですかね。もし「シビュラのデバッグ」を真面目に描くのなら面白くなりそうな素地はありましたけどね。そもそもどうやって資産家を集めたのか、運用初期にどういう問題が生じてどうやって解決していったのか、そういう話に取り組んで初めてサイコパスシリーズを名乗る資格があるんじゃないですかね。
そんな感じで、何も期待はしていなかったし実際何もなく終わった第3期でした。
以上です。
今期はまとめるのがかなり遅れてしまったので、もういっそお蔵入りでもいいかなと思っていたのですが、幸か不幸かまとめる時間ができてしまったので書きました。でも時間が空くと内容思い出すためにもう一回見なくちゃいけなくなるので、やっぱり初見の直後に書くのが一番良いですね。
いつも通り、ご意見は大歓迎です。