このブログでは初の話題ですが、日本人なら誰しもが関心を持っている囲碁と将棋の話をしましょう。専門的な細かいことではなく、あくまで最近の話題を一通りおさらいしておこうというだけです。記事がこの前の『ケムリクサ』より長くなってしまいましたが、これだけで両棋界にある程度詳しくなれるので、是非お勉強していってください。
実を言うとこの記事は3月中に書く予定だったので、最近と言いつつ若干内容が古くなってしまいました。記事URLを見るといつ書き始めたかバレるのは内緒です。
僕は『ヒカルの碁』を連載当時から読んでいましたが、大学時代に改めて読んで、そのときに囲碁を始めた典型的なパターンです。あまりにも名作の漫画なので、一度特集記事を書きたいところです。腕前は囲碁クエストで初段、まあわかりやすくいえば「素人に毛が生えた程度」です。
将棋はいわゆる見る将というやつでルールしか知らないのですが、「電王戦」以来将棋番組を見たり将棋界のニュースはチェックしています。僕は「電王戦」をドワンゴが人類史に残した偉業と呼んでいいほどの素晴らしいイベントだったと評価しているので、これもいつか改めて特集します。
以下たくさんの棋士の方々のお名前を挙げますが、すべて敬称は略します。
将棋の話
さてまずは将棋の話。
先月NHK杯テレビ将棋トーナメントの決勝戦が放送され、羽生善治九段が見事優勝を果たしました。2017年に永世七冠を獲得し、囲碁の井山裕太と共に国民栄誉賞を授与されたのは皆さんの記憶に新しいことと思いますが、その後タイトル通算100期獲得の期待が高まる中で防衛を果たすことが出来ず、昨年ついに無冠となりました。「羽生は衰えた」と10年以上言われ続ける一方で上り調子の若手を次々と破り、まるで衰えとは無縁の貫禄を示し続けてきたわけですが、無冠になって「今度こそいよいよか」と思われている中でこの優勝を果たしたのです。どんな言葉でこの偉大さを表現すればよいのか。
そして今回のNHK杯のベスト4の顔ぶれがまたすごいわけです。確認していきましょう。
森内俊之九段 (48)
丸山忠久九段 (48)
羽生善治九段 (48)
郷田真隆九段 (48)
NHKを使ってなに同窓会を開いてるんだよ。いわゆる「羽生世代」にどれだけの優秀な棋士が集まっているのか、そしてなにより羽生に辛酸を舐めさせられ続けてきたのか、よくわかりますね。ちなみに決勝で解説を務めたのも羽生世代筆頭の佐藤康光会長です。
いやはやこの世代の人たちにとってこれほど嬉しいこともないでしょう。もはや現代の囲碁・将棋はスポーツと同様、40代の人間が若手と競り続けるのは非常に厳しい世界になりました。そんな中でこうして結果を残しているわけですから、これだけですごく勇気を与えられることでしょうね。
しかし今回のNHK杯のドラマはこれだけではありません。7月15日放映の第1回戦に藤井聡太七段が弱冠15歳にして早くも登場しました。彼については皆さんご存知でしょうから説明はしませんが、その対戦相手は誰かと言えば、羽生世代に近い今泉健司四段(45)です。
実は彼がデビューしたのは2014年、41歳のときです。プロ試験の最長年齢である26歳を大幅に超える彼がどうやってプロになったのかといえば、新たに整備された「棋士編入試験」を通過したのです。大まかな経緯はスポーツ報知記事のアーカイブを載せておきますのでご覧ください。
もちろん通常のプロ試験は過酷な狭き門ですが、編入試験の通過も並大抵ではありません。なぜなら既にプロになっている棋士と戦って好成績をあげなければいけないからです。その厳しい道のりを越え、晴れて戦後最年長でプロ棋士となったわけです。
そんな非常に対照的な二人のルーキーの対戦とあっては注目されないはずがありません。とはいえ下馬評は当然藤井聡太の圧勝でほぼ固まっていました。そしていよいよ対戦。予想通り序盤から藤井七段が強さを見せつけ、ほぼ絶望的と思われていた終盤でなんと今泉四段が逆転勝利。今後の将棋会を背負っていくスーパースターをオールドルーキーが打ち破るという、事実は小説より奇なりとはまさにこのこと。彼の存在をより世に知らしめる結果となりました。
今泉四段は「僕がプロになれたのはもちろん瀬川さんのおかげ」と言っています。瀬川さんとは瀬川晶司六段のことです。彼こそが「棋士編入試験」再整備後の、そして戦後初のプロ編入合格者です。この経緯を描いたのが映画化もされた『泣き虫しょったんの奇跡』なのです。原作を執筆したのはなんとご本人。出版はずいぶん前なのですが、僕は映画化のニュースを知ってから去年ようやく読んで、非常に面白かったです。将棋に興味あるなしに関わらず、自分の唯一の存在意義を打ち砕かれ絶望しか残されていない一人の男の人生を辿るという意味で、一読してみるのをおすすめします。
将棋のプロになる過酷さを描いたものでもう一つ有名なものとして、『将棋の子』(大崎善生)があります。こちらは一人の男にスポットを当てつつ、プロ試験と養成機関である奨励会における様々な人間のドラマを描いたノンフィクション作品です。僕がこれを初めて読んだのが26歳、まさにプロ試験の制限年齢のときだったのです。それもあって、僕にとっては人生観に影響を与えるくらい重要な作品でした。決して『泣き虫しょったんの奇跡』のような形の感動する作品ではありません。しかし人の生きる道筋について多くの考える材料を与えてくれます。こちらも一読を強く薦めます。
囲碁の話
さて次は囲碁です。
先月「ワールド碁チャンピオンシップ2019」という世界棋戦が行われました。これは日本棋院が2017年から年1回で主催をしている大会で、日本・中国・韓国・台湾のトップ棋士が出場してきました。これまでは事前に出場者を決めていたのですが、今回は出場決定済み棋士の他にそれぞれの国で予選を行い、その通過者同士でさらにトーナメントを行って勝ち上がった棋士も参加できることになりました。
日本からはご存知井山裕太と、台湾出身の張栩(ちょうう)の二人が代表で出場しました。日本には井山の一回り上の世代に四天王と呼ばれる棋士たちがいて、張栩はその中の一人です。井山が登場するまでは国内最強と評されていました。将棋で言う所の羽生が登場するまでの谷川浩司みたいなものだとお考えください。
囲碁が将棋と大きく違うところは、やはりこの世界戦の存在でしょう。冒頭で紹介した『ヒカルの碁』が連載されていたのは2000年代初頭ですが、その中で既に「日本は中国・韓国に大きく水をあけられている状況だ」と描かれています。これは今でも変わりません。というよりそれがさらに顕著になったとさえ言えるでしょう。今回の国際予選で日本の棋士が多数出場していながら一人も勝ち上がることが出来なかったという事実がそれを物語っています。
先ほど紹介した張栩は10歳の頃にプロになるべく日本にやってきたのですが、30年前はその選択が当たり前でした。そういう栄華の時代もあったのですが、今となってははるか遠くの昔話になってしまいました。
中国・韓国における囲碁教育の熱は日本とは比べ物になりません。多くの子供が小学生のうちから養成機関に入って苛烈な競争にさらされて訓練しているわけですから、そこからさらに選抜されてプロになる人のレベルは当然日本よりも高いです。
先ほど囲碁・将棋をスポーツと同様と言いましたが、プロの囲碁は一般的なプロスポーツよりも年齢の壁が厚いかもしれません。中韓では10代のプロデビューが当たり前で、20歳前後が全盛期、30代に入ると化石と呼ばれるような状況にさえ今はなってしまいました。それぐらい、非常に複雑な局面を読み切る体力が物を言う時代になったということです。
日本国内ではどうしても将棋に人気が集まってしまいますからその分囲碁人口が減っている面がありますが、中韓は頭脳ゲームの人気が囲碁に集中しているわけです。なので一般人の囲碁のレベル自体が日本より高く、囲碁専門のチャンネルが設けられて多くの人がそれを楽しんでいます。
ちなみに世界というのはアジア圏だけでなく、本当に世界中で囲碁は行われています。もちろんレベルはアジア圏とは比べ物にならないのですが、それでも年々レベルが上がってきています。日本では特にマイケル・レドモンドというアメリカ人棋士が有名です。2016年の歴史的なAlphaGoのイベントでは公式解説を務めていました。
さて今回の大会はYoutubeで生放送されていました。動画はそのまま残っているので1日目のものを紹介しておきます。
紹介しておいてなんですが、これは動画の質があまりよくありません。いや、囲碁のネット放送はいつもそうなんです。これが将棋に比べると非常に残念な点なんですよね。
将棋界は冒頭の「電王戦」をはじめ、押し寄せるインターネットの波に早くから順応していきました。もちろんそこには、将棋ソフトが予想より早くプロ棋士の実力に追いついてしまったという背景が深く関わっています。その努力の甲斐あってか、今では全てのタイトル戦のみならず注目の棋戦は予選からネット放送されてるものもありますし、その質も高いです。なので僕のような見る将でも番組を楽しむことができるわけです。
一方で囲碁界はというと、もちろん昔に比べれば大きく変わってはきたのですが、残念ながら将棋のように真剣に対応しようという気概は感じられません。だいたいは現地で行われている大盤解説をそのまま放送しているだけのものが多く、しかも音響設備を番組用に対応させてるわけではないので雑音も多いし不具合も多いです。専用のスタジオに棋士を呼んでしっかり番組を構成しようとしている将棋界とは雲泥の差です。囲碁派の僕としては残念でなりませんね。
ではこれから大会内容と結果の話をしますが、もし自分の目で確かめたいという方は先ほどの動画からご覧になってください。まあここの読者でそんな人は一人もいないと思いますが。
大会は日本2名、中国3名、韓国3名の8人のトーナメントです。出場者の大会時点での世界棋士レーティングを紹介しましょう。わかりやすく言えば「強さの指標」です。
中国 柯潔(かけつ)1位、 江維傑(こういけつ)11位
韓国 申真諝(シンジンソ)2位、 朴廷桓(パクジョンファン)3位
日本 井山裕太 62位
わかりましたか? 日本の圧倒的な第一人者の井山がこの順位なのです。
まあもちろん難しい事情もあります。昨年まで七冠保持していた井山は国内棋戦だけで非常に忙しく、それに加えて第一人者としての様々な仕事やイベントをこなさなくてはなりません。なので世界棋戦に挑戦する機会自体がそれほど多くはありませんし、それ用の研究の時間も多くはとれないでしょう。なので若手に頑張ってもらいたいところなのですが、期待の星で情熱大陸にも出演した一力遼が84位、昨年井山からタイトルを奪取した許家元が121位と、なかなか振るわないのが現状です。
さて1回戦の組み合わせは、井山vs江維傑、張栩vs申真諝です。レーティングを見れば非常に厳しい組み合わせだとわかるでしょう。
今大会の開催場所は日本棋院東京本院で、そこで解説会も同時に開かれていて、日本代表の2つの対局を同時進行で解説していたのですが、まず先に張栩が敗退してしまいました。対局内容は悪くないどころかむしろチャンスがあったぐらいなのですが、わずかなミスで形勢が一気に決まってしまった感じです。これが世界戦の厳しさというやつですね。
こうなると井山も難しいかな… と皆が心配していた中、解説の様子では形勢が悪くなさそうです。「おおいけるか!?」と期待したいところなんですが、これまで世界戦で井山が優勢の状態から逆転負けを喫しているのを何度も目撃している囲碁ファンとしては気軽に楽観視できないんです。ですが江維傑が勝負手を繰り出している一方で井山がうまくいなしていて、どんどん形勢に差が開いていき、ついに井山の投了勝ちとなりました。
いやー見事でしたね。実はこの大会の3日前に棋聖戦が行われていて、先述した四天王の一人の山下敬吾が井山に挑戦していたのですが、なんと3勝3敗で最終局までもつれていたんですね。七冠が崩れて井山が次々にタイトルを失っていく流れは十分にあり得るのですが、ものすごい接戦を制して井山が防衛したのです。なので本人も調子が上がっているのかもしれません。
大金星を上げたはいいが、翌日の対戦相手はついに世界1位の柯潔の登場です。その名前を知らない人も多いでしょうけれど、彼こそが2017年にAlphaGoと人間の最後の戦いを務めた人物です。Wikipediaに対戦の単独記事もあります。つまり世界の囲碁界が認める、現役最強の棋士ということです。
さあ果たして対局の行方は! といきたいところなんですが、ここでちょっと1日目の解説会をしていた二人を紹介したいのです。
解説は伊田篤史八段、聞き手は万波奈穂四段です。伊田篤史はポスト井山世代の筆頭の一人で、最初に井山が七冠を達成したときの十段タイトルを奪われた棋士として有名です。万波奈穂は以前NHK囲碁の司会を務めていたことがあるので、一般的にも比較的知られています。この二人は昨年に結婚発表をして、僕は声をあげてしまうほど驚いたものですが、改めて考えてみるととても良いコンビだと思います。
なんでこの話をしたのかというと、僕の意見では、万波奈穂は将棋・囲碁界両方を含めて最高の聞き手だと思っているんです。ベテランの棋士を相手にしてもまったく物怖じする素振りはなく、しかし敬意が節々に現れていて、対局についての素人目線の疑問を自然に投げかけることができて、雑談をこなすのも大変上手で、突然のアクシデントでも柔軟に対応することができる、本当に完璧な聞き手だと思います。この中のどれかを満たしてる聞き手はたくさんいるのですが、全部満たしてるのは彼女以外に知らないです。なのでもっともっと評価されていいなと思っているのです。
それだけ有能な人なのであちこちで解説に駆り出されて忙しいためか、なかなか本業の対局では実績が目立っていなかったのですが、昨年扇興杯女流囲碁最強戦で初めて公式戦優勝を果たしました。そのときの優勝インタビューは普段の明るい調子の彼女とはまったく違って、涙ながらに喜びを語っている姿は僕も胸を打たれました。こういう人が実績を残せると、すごく嬉しくなりますね。
それ以来旦那が「えーと、万波扇興杯はどう思いますか?」とからかい半分に呼ぶのが微笑ましくていいですね。先ほどの動画でも4:49:30あたりから面白い掛け合いが見られます。
続いて、2日目の解説会も豪華です。聞き手は吉原由香里六段、あの『ヒカルの碁』の監修を行っていた棋士です。見た目も話しぶりも本当に優しい人柄が溢れ出ていて、好きにならない人はいないです(断言)。今回彼女が聞き手を務める理由は簡単です。解説役が猛獣だからですね。きちんと相手をできるのは先ほどの万波奈穂か由香里先生ぐらいしかいません。
解説は趙治勲(ちょうちくん)名誉名人、現在の囲碁界において最も格が高い棋士です。井山が生まれた頃の時代は性格も棋力も鬼と形容されていたのですが、今となっては浮浪者と呼ばれるような風体になってしまいました。
趙治勲の解説は、まあなんと言えばいいのか、とにかくすごいです。解説なのか漫談なのかわからないという意味ですごいんです。百聞は一見に如かず、彼の解説がどういうものか全て詰まった動画があるので是非見てください。タイトルは「碁ルフ」です。右が趙治勲、左が趙治勲の最大の友でありライバル、小林光一名誉棋聖です。
niconicoがうまく再生されない場合はこちらのYoutube版をご覧ください。
なにがすごいってこの雑談から実に自然に本題に入っていくところですね。この遠慮のない語り口、是非身に付けたいものです。
今回の解説会でも趙治勲節は全開です。聞き手いじり、お客さんいじりは当たり前、さらに碁石並べ役の人までいじるのは囲碁界でこの人だけでしょうね。本当に面白いです。一応準決勝の動画も紹介しておきます。
これだけは言っておかなければいけませんが、僕にとっての趙治勲の最大の魅力は笑いではないんです。この日は井山戦の他に朴廷桓戦の解説もあったのですが、「どうせみなさんこっち興味ないでしょ」なんて言いつつ、すごく良い解説をしてくれました。
3:25:00からなんですが、朴廷桓の放ったある一手に対し、「皆さんこれに気がつきましたか?」という話をしています。要約して紹介します。
僕が彼に対して共感なんて烏滸がましくて言えたものではないのですが、僕は僕のレベルで、すごく共感するのです。僕にとっての音楽の最大の喜びも、自分の作品や演奏じゃなく、人の作品や演奏を聴くことなんです。きっとこの作品の奥底に、この演奏の真髄に、誰も気がつくことはないんだろうなというものに出会えたときほど嬉しいものはありません。そしてそういう感動を他の人にも伝えることが出来たらな、という気持ちもすごくわかります。それも僕がこのブログをやっている大きな理由の一つですね。こうやって色んな偉人を紹介できて、僕は本当に幸せです。
すっかり本題を忘れていましたが、これは井山vs柯潔の大事な大事な一戦です。趙治勲の解説によると序盤から柯潔の手には疑問がある様子です。そして局面が進んでいく度に、どんどんと井山が優勢になっているとのこと。ついには勝勢とまで言える段階まできました。すごいと思いませんか。世界一位に相手にこんな打ちまわしが出来るんですよ、井山は。
ところがここで趙治勲が非常に不穏な一言を放ちます。
「勝てそうな碁を勝ち切るのが、一番難しいんです」
変なフラグを立てるのはやめてくれー!
「この場面、いわゆる一つの、「どうやっても勝てる」という可能性があるんです。井山にとって。このときが困りもんですね。だめな方がいいんです。「これしかない」んだったらそれを打てばいい。でも今はどっちに打ってもよさそう、これが一番困る。こっちのハネは、多少失敗しても勝ちそうな、安定してる感じはあります。でもこっちのキリを選ぶと、もし失敗するとこれで終わっちゃうんです」
そして井山が選んだのはハネでした。この段階で趙治勲は「90%勝てます」と断言してましたが、由香里先生は「でも世界戦は本当に怖いですから、やっぱり安心は出来ないですよー」と不安げな様子。
それから。柯潔はなぜ彼が世界一位の座にいるのか、その証明をするかのような驚異的な粘りを見せていきます。どんどん形勢が怪しくなっていき…
趙治勲「やっぱりさっきの場面、きるべきだったね」
由香里先生「そんなー! でもまだ決まったわけじゃないんですよね?」
趙治勲「うん、まだ井山がいいかもしれないけど、でも気持ちの動揺が抑えきれないね、この失敗は」
どんどん由香里先生の声色が暗くなっていきます。由香里先生が悲しそうにしてるとこちらも本当に悲しくなります。
そしてついに井山が投了。柯潔の勝利となりました。本当に、本当に残念でなりませんね。でもこれが世界戦の厳しさなんですよね…
今大会では対局終了後に解説会場に対局者二人が来て少し話をすることになってるのですが、二人が来る前に趙治勲は井山を慮ってフォローをしていました。
とかく最近は、どんな分野で活躍している人に対しても潔癖が求められるような世の中になってきたと感じます。世界レベルの活躍をしている人に対して、ちょっとした言葉や態度を論(あげつら)って難癖をつける場面は何度も見てきました。もちろん功績があれば何をしたっていいなんて言うつもりはありません。しかし人格の良い(良く見える)人を過剰に持て囃して、そうじゃないと下に見るという風潮は好きになれません。
どのみち井山はそんな心配はまったく無用なほど立派な人なので、負けたあとでもしっかり話をしてくれました。それどころかちょっとした笑いまで入れてくるのですから、本当にすごい人です。やはり両者とも見解はある程度一致していたようです。あの場面でハネるかキリか、そこが勝負の分かれ目だったようですね。
これに勝つことが出来てれば本当に世界一が見えていたという勝負で、勝つ寸前までいって負けるというのは、僕には永遠に想像がつかない悔しさなのでしょう。残念でなりませんが、井山裕太にはこれからもまだまだ活躍を期待します。30歳を超えたら化石という常識なんて打ち破ってもらいたいですね。
これは井山が2度目の七冠を達成したときの新聞の切り抜きですが、これをいつも持ち歩いて生活する程度には彼のファンなんです。彼の存在は、彼が決して会うことのない異国の人間も勇気付けてくれています。
ちなみに決勝は柯潔vs朴廷桓、この二人の決勝は見慣れすぎて嫌になります。そして優勝は韓国の朴廷桓、これでワールド碁チャンピオンシップ3連覇を果たしました。日本主催の大会で外国に賞金がどんどん流れていくという、非常に悔しい現状でございます。
おわりに
「お前あまりに将棋と囲碁で文量が違わないか?」
これは仕方のない話です。僕は囲碁派なので。
さて最後に直近の将棋・囲碁の注目棋戦を紹介して終わりにしましょう。
将棋は昨日名人戦第1局が終わったところです。佐藤天彦名人に豊島将之二冠が挑戦しています。この対局がなんと千日手指し直しになったので、気になる方は結果を調べてみてください。Youtubeに解説動画もいくつかあります。無冠の帝王だった豊島の今後の活躍が楽しみですね。
新たに設立された棋戦、叡王戦第1局も行われました。高見泰地叡王に永瀬拓矢七段が挑戦しています。挑戦者決定戦のやり方もそうですが、番勝負の中で持ち時間が変わっていくという斬新なルールが目を引きますね。昨年タイトルを獲得して一気に知名度を上げた高見叡王に永瀬軍曹がどこまで迫っていくのか見ものです。
みんな大好き藤井聡太七段は、2月の朝日杯で渡辺明棋王を破って優勝しています。今年、来年でタイトルを獲得する実力は既に備えているということでしょう。注目ですね。
囲碁の方は、昨日十段戦第3局が行われました。井山裕太十段に村川大介八段が挑戦しています。村川は井山と同世代で、共に関西圏なので仲の良い二人で知られています。1勝1敗で迎えた第3局、果たしてどちらが勝ったのか。僕もこれから中継の録画を見ます。
来月からは本因坊戦が始まります。先日挑戦者決定戦が行われました。芝野虎丸七段と河野臨九段が戦い、河野九段が勝利しました。河野は四天王世代で、つまり井山よりも年上なのですが、棋聖戦に挑戦した山下といい井山と共に世界戦に出場した張栩といい、若手の台頭目覚ましい囲碁界においてベテラン勢の活躍が目立ちますね。芝野はまだ19歳ながら既にトップクラスの実力で、日本だけじゃなく世界戦での活躍が期待されています。今回は残念でしたが、他のタイトル戦でも必ず挑戦者になることでしょう。
今年のNHK杯決勝は井山対一力の、非常に順当なカードになったのですが、一力遼が見事優勝を果たしました。一力もトップクラスの実力ながらなかなかタイトル挑戦者になれずに苦しんでいた最中だったので、これが壁をやぶるきっかけになるといいですね。二人は今年のテレビアジア選手権に出場することになってるので、今度こそ世界制覇に期待したいですね。
本当に楽しみなことばかりです。将棋・囲碁、両棋界のますますの発展を祈っています。うそです、特に囲碁界の方の発展を強く願っています。ほんとに頼むよ日本棋院。