In Between -Ensemble intercontemporain 4/12@CdlM [6.0]

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4月12日、シテ・ドゥ・ラ・ミュージックのアンサンブル・アンテルコンタンポランのコンサートに行ってきました。

コンサートの前日にメールがきて、「あなたの席は立ち見なのでご了承ください」と書かれてたのです。え? そんなのないはずじゃ… 人が多すぎて立ち見になったとか?

よくわからないまま当日を迎えてホールに入ると、謎の巨大な繊維が鎮座してました。

 

 

 

そしていつもはステージの前にあるはずの席が撤去されていて、1階は左右の壁際にそれぞれ40席ほどあるだけで、中央にグランドピアノがある以外はただひらけている状態になっていました。

 

 

 

これは休憩時間に撮ったものなので明るいですが、入場したときは謎の繊維以外真っ暗で、自分含め1階席のチケットの人がよく状況がわからずうろうろしている感じでした。立ち見っていうのはこういう趣向だったということですね。奏者と近い距離で音楽を楽しもうということなのでしょう。

 

 

プログラム

 

やがてステージに奏者と指揮者が入場してきて、拍手もなく自然と静かになっていきます。僕はステージにかなり近い位置にいました。5、6メートルくらいしか離れてなかったと思います。

 

1. Giacinto Scelsi (1905-1988) «Anahit» (1965)

最初の曲はヴァイオリンソロと室内オーケストラの作品。日本語Wikipediaに作曲者の記事がありました。僕はこの人をまったく知らなかったです。フランス語版Wikipediaによるとシェーンベルグの生徒でもあったようです。

いわゆる白玉系の持続音主体の作品。最初はちょっと協和音というか長三和音をかするような響きから始まってだんだんと楽器を増やして濁らせていく構成。ヴァイオリンソロはひたすら重音か移弦スラー奏法だけ、音も同音から短二度の間ぐらいをうねるような感じ。オーケストラもほとんど持続音かトリルのみで、印象としてはいろんなサイレンが延々と鳴り響いてるような感じでした。

一貫性があるのは悪くないんですが、少し単調かなという印象だったのですが、終わった後でこの作曲家の年代を知って驚きました。もっと最近の人だと思ったのです。それぐらい新しい響きではありましたね。5.0。

 

静かに曲が終わったと思ったらいきなり爆音が響きだしてみんなビックリしてました。そしてステージ後方がライトアップされて、2曲目が続けて演奏されました。今回はこんな感じで途切れなく演奏していくようです。

 

 

 

いきなりライブハウスに来てしまったような雰囲気ですね。

 

2. Yann Robin (1974-) «Art of Metal 2» (2007)

コントラバスクラリネットのソロ作品。ライブエレクトロニクス(Maxに代表されるプログラムを使ってリアルタイムで音情報の変調を行い、楽器の音と同時に電子音を流す手法)かつミクストミュージック(録音済み素材を流す手法)です。

作曲者はフランス人。マルセイユでジャズを学んだ後でパリに来て、IRCAMの研究生になりました。これはその研究生時代の作品。

冒頭の爆音もそうですし、耳をつんざくような表現が多かったのはよくないですが、これは技師の問題もあるでしょう。全体的にはソロ楽器のライブエレクトロニクスとしては悪くない部類だったと思います。演奏は破裂音系の特殊奏法が中心で、演奏そのものは見事でしたね。録音素材の方の面白みがあまりなかったのが残念。4.5。

 

曲が終わった直後に僕の真後ろでピアノの作品が始まりました。

 

 

 

これぐらい近かったです。楽譜が見える位置にいられて幸運でしたね。

 

3. Helmut Lachenmann (1935-) «Guero» (1969、改作1988)

ラッヘンマンは存命の作曲家の中では世界で最も有名な一人でしょう。彼に学んだ日本人もたくさんいます。僕としては今のところ、それほど好きな作曲家ではありません

作品は鍵盤をほぼ叩かない特殊奏法のみの曲。楽譜は完全に図形楽譜でした。鍵盤の上を爪でグリッサンドするような奏法がメインです。特に面白みはありません。2.0。

 

4. Aureliano Cattaneo (1974-) «Corda» (2016)

続いて奏者を入れ替えてそのままピアノ作品。イタリア人作曲家で、グリゼーにも学んだことがあるようです。先日のコンサートでも紹介したAgata Zubelと同様、2e2mのコンポーザー・イン・レジデンスを務めたこともあります。

こちらはさきほどの曲とはうってかわって面白かったです。奏者が一人にも関わらず見た目以上に音が多く聴こえてきたんですよね。どうなってんだ? と思っていたら、ピアノ内部にスピーカーを設置していて、そこからもピアノの音を同時に流していたんですね。ピッチのわざと狂ってるピアノの音を使ったり、さきほどの曲のような特殊奏法を奏者とスピーカーで同時にやったりなど、音の混ぜ方が実にうまくいってる箇所が多かったです。一方で録音素材の方でピアノの強い音の表現をしたときに、実際のピアノとの音量のバランスが崩れてしまっていたので、ここらへんまで調整できていればさらに良かったんですが。

途中で内部の弦をミュートさせてるような音を何度か出していたのですが、実際に手で押さえてるわけでもないし予め何かミュートするようなものを置いてるわけでもなかったんですよね。これがどういう理屈なのかはよくわかりませんでした。何かの装置でミュートを切り替えられるようにできてたんでしょうかね。仕組みはともかく、面白い表現でした。6.0。

 

 

 

ピアノ2曲が終わって、またステージに戻ります。

 

5. Aureliano Cattaneo (1974-) «Deserti» (2019)

同じ作曲家で、こちらは今回の委嘱作品、世界初演です。打楽器二人の室内オーケストラ編成。打楽器はチャイナドラが目立っていましたね。カンフー映画などで誰しもが聞いたことあるあの音です。

構成は大まかに急緩急緩急緩の6部に分かれる感じでしたかね。冒頭がチャイナドラとピアノの内部をハンマーで叩く音で始まったのですが、こういうのが許されるのがさすがパリですね。日本ではほぼ無理でしょう。それぞれの緩やかな場面ではコントラバスの特殊奏法ソロが入ってました。

25分近くあったと思いますが、それだけの長さを保てるような面白みはありませんでした。響きはカオスではなくそれなりに練られてる感じはありましたが、特に目を引く表現はありませんでした。3.5。

 

休憩を挟んで後半。

 

6. Matthias Pintscher (1971-) «Study 3 for Treatise on the Veil» (2007)

ヴァイオリンソロの作品。作曲者は現在のアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督その人です。つまりこれまでも彼が常に指揮を振ってきましたし、この日もそうです。なので僕にとってお馴染みの人なんですが、彼自身の作品を聴いたのはこれが初めてです。

冒頭は金属ミュートをつけた状態で始まり、次にミュートなし、次にゴムミュート、最後はミュートなし、という構成。いわゆるフォルテの状態が一切ない、ほぼ常に弓が弦を上滑りするような微妙な音のみで作られていました。特に語ることもなく、面白みもなかったですね。2.5。

 

 

 

本日最後は室内オーケストラ作品。前半登場したラッヘンマンの作品です。

 

7. Helmut Lachenmann (1935-) «Movement (-vor der Erstarrung)» (1984)

今回とまったく同じ、アンサンブル・アンテルコンタンポランとMatthias Pintscherの指揮でこの作品を演奏している映像があったのでまず紹介します。先を読む前にちょっと聴いてみてください。

 

 

 

 

 

どうでしたか。多分みなさん全部聴かずにやめたんじゃないですかね。全部ちゃんと聴いた人はえらいです。えらいか?

まあしかしこれを聴いただけでも、ラッヘンマンが現在に至るまで現代音楽界にどれだけ強い影響を与えてきたかがよくわかります。僕自身はそれを良い意味では捉えていませんが。

15:04〜19:10の部分はまだわかります。音楽的な狙いや楽しみが見出せます。しかしそれ以外の箇所は僕にとって全て不要です。こういうことを言うと優秀なキャリアをもつ作曲家の皆さんから「まったく素人くさい意見だな」と思われるのでしょうけど、なんぼのもんじゃいって感じですね。寝ぼけているのはどちらなのか、100年後と言わず50年後にはわかることでしょう。

逆さに置いたティンパニーだけは悪くないですね。なかなか面白い音です。僕にとっての発見はそれだけです。3.0。

 

 

 

一風変わった趣向のコンサートでした。立ちながら聴き続けるのはなかなかしんどいですが、強制的に寝ずに聴けるというのもある意味でありがたいです。たまにはいいんじゃないでしょうか。