Three Places -Ensemble intercontemporain 11/5@CdlM [4.0]

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11月5日、シテ・ドゥ・ラ・ミュージックのアンサンブル・アンテルコンタンポランのコンサートに行ってきました。

 

プログラム

 

実際の演奏では前半の2曲の順番が逆になっていました。その順で紹介します。

 

1. George Crumb (1929-): «Kronos-Kryptos» (2018) 国内初演

ジョージ・クラムはアメリカの作曲家。詳しくはWikipediaをどうぞ。

今回は打楽器5人の作品。現代作品で打楽器のみだと小難しいイメージがあるかもしれませんが、これはヴィブラフォンやグロッケンなどの鍵盤打楽器が多めで、かつリズム点が結構単純なのでかなり聴きやすい部類です。4部構成で、第2部なんかはホラー系のアニメや映画でそのまま使えそうな雰囲気でした。水の入ったタライにボトルの水を注ぎこむ、というのは現代作品では初めて見ましたね。第3部の賑やかな楽章では演奏者に掛け声を出させることもやっていましたが、あんまりこういうのはやらない方がいいですね。よっぽど工夫しない限り不細工にしかならないですから。

比較的簡明な響きと構成の作品でしたが、裏を返せば見所もあまりないってことでもあります。古典的だとしても洗練された技法か、不細工だとしても意欲的な仕掛けか、少なくともどちらかは欲しいところですね。3.5。

 

 

2. アイヴズ:«Three Places in New England» (1929)

アイヴズもアメリカ生まれの作曲家。シェーンベルクと同じ1874年生まれですが作風はまったく違います。その経歴とスタイルから音楽史上では「アマチュア作曲家」と評されることも多いですが、近年は評価が高まってきている感じです。日本語版Wikipediaではこの作品の作曲年代が1903-21と書かれていますが、プログラムにも英語版Wikipediaにも改訂1929(初演は1931)と書かれているので、まあそちらが正しいのだと思われます。

音楽史では近代から現代の過渡期を象徴する作曲家の一人ですが、アンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏レパートリーという点で考えるとかなり古典の部類に入るでしょう。まあでも演奏のクオリティは確かなものでした。第2楽章のパロディ風マーチのヤケクソ感もよく出ていました。作品としては、まあ個人的には「いつものアイヴズ」以上のものはなかったんですが、最後の締め方はなんか肩透かしな感じでもったいなかったです。

 

 

3. Enno Poppe (1969-): «Prozession» (2020) 国内初演

ドイツの作曲家。ベルリン芸術大学で作曲と指揮を学び、数々の作曲賞受賞と共にダルムシュタット夏季講習会でも教鞭をとっていたようです。今回のプログラムの表紙にもなっています。

 

 

今作は小オーケストラ編成ですが、シンセサイザー2つとエレキギターが加わっています。クラムの作品と比べるとこちらはリズム点の面でもハーモニーの面でも相当複雑で現代的な感じです。まあ作家の世代がかなり違うので当然っちゃ当然ですが。

ノンストップで50分の超大作で、大まかに前後半に分かれています。前半部は4人の打楽器の不定形な賑やかしが常に鳴っていて、その中で近似音程の衝突とポルタメントを主体としたモチーフが繰り返されていました。このモチーフについては割と良かったと思うんですが、その発展のさせ方はイマイチだったように思います。あとはトゥッティで広音域が鳴るときはかなりカオスな音響になるのですが、その響きも洗練されてるとは感じませんでしたね。ただシンセとエレキの用法については、乱用を避けて抑制しつつも効果的だったので、それは良かったと思います。

 

もはや何でもありな現代音楽において、どうやって「新しいカオス」を生み出すのか、というのはテーマになりやすいのかなと思うのですが(それが面白いかどうかはさておいて)、12音全部使って、微分音も使って、打楽器ゴチャゴチャさせて、みたいな単純な方法では「どこかで聞いたカオス」にしかならないわけですよね。狙い澄ました楽器法と前後関係の音響配置によほどの工夫を凝らさないと新しい感覚のカオスにはならないと思うので、そういった点の工夫が欲しかったです。

そしてなにしろ、50分って非常に長いです。個人的には「音楽的内容」と作品時間が釣り合ってない印象です。つまり素材をこねくり回している時間が長すぎるってことですね。別に時間を要する瞑想的な作品でもないですし、同じ内容で30分くらいにまとまっていればもっと好印象だったと思います。4.0。

 

 

アンテルコンタンポランの演奏を久々に聴きましたが、やはり演奏の質は高いですね。特に打楽器は素晴らしいです。このブログでも何度か登場している、僕が激推ししているチェリストの Éric-Maria Couturier ですが、この日は一人だけタンクトップの出立ちでとても目立っていました。僕はそれほどタトゥーに魅力を感じるタイプではありませんが、彼のタトゥーはかっこいいなと思いますね。

 

 

ちなみに帰りのトラムはトラブルで運行停止していました。ツイッターで色々検索してみたのですが、この件で呟いている人は誰一人いないほどの茶飯事です。はあー(ため息)