ベルク: ある天使の思い出に 他 -パリ音楽院オーケストラ 11/10@PdP [6.0]

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11月10日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、パリ音楽院オーケストラ(Orchestre du Conservatoire de Paris)のコンサートに行ってきました。これはパリ高等音楽院の学生たちで構成される、いわゆる学生オケです。僕にとってはパリの学生オケを聴くのは初めてですし、日本でさえ学生オケそのものもずいぶん長いこと聴いてなかったので、新鮮な感じで楽しみです。

 

プログラム

 

1. ウェーベルン: パッサカリア op.1
2. ベルク: ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」
3. ブラームス: 交響曲第4番

 

 

まず会場に入ったらいつもスマートフォンでチケットを表示させて受付を通るのですが、今回は席の振替があるからこっちから入ってくれとの指示。ついていくとえらい前の方に案内されました。理由は不明ですがラッキーです。何十回このホールに来てるかわからないぐらいですが、こんなに良い席に座るのは初めてです。パリ管だったら50〜60ユーロくらいしますからね。

 

さて最初はウェーベルンのパッサカリア。ちょうど1年くらい前にパリ管の演奏を聴きに来ました。ウェーベルンとこの後のベルクについても軽く書かれているので知らない方はそちらからどうぞ。

ウェーベルン: パッサカリア 他 -パリ管弦楽団 10/16@PdP [8.0]
10月16日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、パリ管弦楽団のコンサートに行ってきました。指揮はFrançois-Xavier Roth、現在ロンドンフィルの首席客演指揮者、ケルン市音楽総監督などを務めています。 1. ウェーベルン:...

 

さて、一般的なプロオケと、アマチュアオケ・学生オケの一番の違いは何かというと、まず思うのは弦セクションの実力差の開きでしょうかね。学生オケでも上手い人は本当に上手くてプロレベルの場合も少なくないのですが、それはごく一部であって何十人もの奏者がそのレベルにいるわけではありません。となると必然的にセクション内での音の統一が取れなくなるわけですね。もちろんプロだってレベル差は当然ありますが、それでもコンマスにピタっとついてくるだけの実力はないとオケではやっていけませんから、そこはさすがにプロなのです。

おそらく世界でもトップレベルであろうパリ音楽院オケであってもやはりその「学生オケっぽさ」から逃れることは出来ないんだなと思いましたね。まあウェーベルンは難しいですからね。ただ弦よりも、むしろ個人的には打楽器の方が気になりましたね。ティンパニーはまだしも、トライアングルとかなんて誰でも出来そうだと思うじゃないですか。でも全然違うんですよねこれが。まあ打楽器は個人の技量の問題が大きいので、こればっかりは仕方ありません。

 

さてお次はベルクのヴァイオリン協奏曲。もともとベルクの中でもこの作品は有名なのですが、『のだめカンタービレ』の第20巻で清良がコンクールで演奏している描写があって、それでさらに人気が出た印象があります。詩的なタイトルもついてますからね。ただしWikipediaにあるように、正式な副題というわけではありません。

 

 

 

今回のソリストはクリスチャン・テツラフ、日本でもよく演奏しているベテランです。彼がどういうスタイルの演奏家なのかというのは、まあ説明するより見てもらった方がわかりやすいので、短くまとまってる動画を発見しました。6年前のものですが、ラトルと共演しているときのブラームスの最終楽章です。

 

 

この通り、ヴィルトゥオージティ(超絶技巧性)に優れているのは当然ながら、表現の幅も広くて明快な音楽性の示し方をしているので、実にソリスト向きの演奏家という感じですね。ちなみに現在はこのときよりもっと髪が伸びてそれを後ろで縛っている、今風に言うとイケオジですね。

 

さて今回の演奏は、もちろん良かったのは良かったのですが、個人的にはベルクの音楽性よりも彼のキャラクターの方が前に出過ぎてしまったかなという印象は拭えませんね。ただ、常にオーケストラを気にかけている雰囲気で、第1ヴァイオリンとのトゥッティの場面なんかは積極的に音楽を先導するような素振りで、そういう教育的な演奏を心がけようと思っていたのかもしれません。こういうのはプロとの共演の場合だったら絶対に出来ないことですからね。オケも難しいんですが、アンサンブル自体はきっちりこなしていて、さすがパリ音楽院という実力を示していました。アンコールにバッハのソナタ1番のアダージョをやってくれました。

 

 

休憩明けて最後はブラームスの4番。

やはりというか、前半2曲に比べるとオケの完成度がかなり高かったですね。弦セクションもこちらはよくまとまっていました。木管は全体的に良くて、特にフルートとオーボエは素晴らしかったです。この演奏だけならプロと全く遜色ないレベルでした。将来がとても楽しみですね。

 

 

個人的には色々と興味深く聴くことができたコンサートでした。それにつけても、このプログラムは日本の音大ではなかなか実現できないのではないでしょうか。それをこのレベルで仕上げてきただけでも学校のレベルの高さがよくわかりました。機会があればまた聴きに来たいですね。

最後にベルクの映像を紹介しておきましょう。ギル・シャハムとヤルヴィ指揮、N響の演奏です。雰囲気に流されない理知的な演奏かつソリストの輝きをしっかり発揮している名演です。