6月27日(打ち上げ)

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夏休み前、最後の授業の日のお話です。

いつもは午前中と午後一番の授業はドク以外の先生の担当なのですが、この日は朝からずっとドクの授業でした。まずはいつも通り課題の披露。最後だからいいものを仕上げようと思っていたのですがあまり手応えがなく、予想通りイマイチな反応でした。一方で優等生のテオは素晴らしい出来でしたね。

そして問題の試験結果なのですが、ほんっとにギリギリで合格点でした。まあ先生が多少緩めにしてくれたのかもしれませんが。しかし気になるのは前回の試験で僕は合格点に達していなかったので、今回はその足りない分の点数を取らなければいけない、つまりギリギリでは不十分のはずなんです。ですがそれについて先生から何も言われず……ひょっとしたら来年度にしれっと補習を受けさせられる可能性はありますが、そんなのはすでに覚悟の上です。まあ誰に言われずとも、ちゃんとこの夏休みの間でしっかり復習しておかなければいけません。

ちなみに最高点はやはりテオ。ほんっとに彼がいてくれてよかった。来年は見てろよ……!(遥か下から見上げる)

 

昼休みになり持ってきた冷凍ピザをレンジにかけようとしたらユンに、

ユン「ストップストップ!」
僕『え? どしたの?」
「皆とお昼ご飯食べに行かない? さっきラファエルから連絡あって、お店で待ってるって」
『そうなんだ、じゃあ行こうか』
「私もお弁当持ってきてたけど、帰ってから食べるよ」

僕とユンが授業終わった後でドクに質問をしてたときに、他の皆はレストランへ向かってたようです。この日も35度近く、真夏の空気です。

 

 

学校から割と近くにあるタイ料理屋さんです。パリに来て食べるのは初めてですね。

集まっていたのはフランス人のラファエルリュシアン、韓国人のイェジンの3人。これにテオユンと僕を加えた6人が来年度のクラスメイトです。誰も抜けなければですが。そんなわけでテオ以外の5人で初のランチです。

 

 

タイ料理は全然詳しくないので料理名だけではさっぱり検討がつきませんが、グリーンカレーがあったので僕はそれにしました。僕はインドカレーがもっぱら好きなんですが、グリーンカレーも割と好きです。僕の作曲の師匠が一度自宅に招いてグリーンカレーを振舞ってくれたことがあるのですが、それがすごく美味しくて、「ペーストを買えば簡単に作れるよ」と言ってたので挑戦したのですがちっとも簡単じゃなくて全然うまくいきませんでした。具材や調理の仕方がインドカレーとは全然違うんですよね。いつかリベンジできるのか。

 

 

僕のカレーが最初に来ました。どうやらご飯は別注文になるらしいので、だったらいいやと思ってこれだけで食べました。普通に美味しかったです。対面にいるイェジンのは米の麺の何かだと思います。そしてラファエルが注文したのは、

 

 

パイナップルの容器に入ったリゾット的なもの。今調べたらカオパットサパロットという、パイナップルチャーハンらしいですね。味見させてもらったら実にエキゾチックな味でした。

その後ラファエルがデザートでこれを食べようということで注文したのが、

 

 

カオニャオ・マムアンという、もち米とマンゴーのデザートです。味はまぁまぁといった感じ。ラファエルは「前に別な店で食べたときはもっと美味しかったのに」と不満げでした。確かにこれで9ユーロは高級ですね。

 

その後学校へ戻る途中でラファエルから、

ラファエル「俺宮沢賢治の詩が好きなんだよ」
僕『え!? そうなんだ、よく知ってるね』
「昔勉強して、今でも暗誦できるよ。雨ニモマケズ風ニモマケズ……」
『うぇ!? おお、すごいすごい!』

その後彼は半分以上日本語で暗誦してみせたのですが、いやはや驚きですね。果たしてどれだけの日本人が雨ニモマケズを暗誦できるというのか。僕も中学生のときは国語の課題でやらされましたが、さすがに今ではもう覚えていません。外国人が日本を好きになってくれることはもちろん嬉しいことですが、僕にとっては日本語を知ってもらうことの方が遥かに重要で、それだけにこれにはかなり胸を打たれました。彼はギャグで変な日本語シャツを着てるだけじゃないんですよ。これは日本語への愛がなければ出来ませんから、本当に感動しました。いつかラーメンを奢って差し上げましょう。僕は本当に素敵なクラスメイトに恵まれたものです。

 

さて午後は授業、というより、10月にあるコンサートについての話し合いみたいな感じです。これは「共同制作プロジェクト」というやつで2年に一回行われるそうなんですが、今回は2年生のイーチャオが企画者となって進めていきます。「サイバーフューチャー」という大テーマの下に多くの小テーマがあり、それに基づいて各人が作曲をし、それを繋げて一つの作品にする、という流れですね。

というわけでこの時間はドクの現在の門下生が全員集合しました。もちろんルイやアルテュールもいます。こうして皆そろってみると、全然話したこともない人がまだ結構います。いつか仲良くなれるといいですね。

フランスは日本みたいな先輩後輩の上下関係は薄いのですが、それでも上級生たちにはそれっぽい空気があるというか、余裕みたいなものを感じられますよね。まあ彼らほとんど僕より年下なんですけどね、ふふ。

 

それで、自分の担当するテーマについてのプランを紹介し、ドクや他の人の意見を聞きながら方向性を検討して、だいぶ方針が明確になりました。これ以外にも作らなきゃいけないものは沢山あるので、このプロジェクトに関しては早めに着手しておきたいですね。言質とったからな。(自分同士の会話)

そして17時頃に話し合いが終了し、今年度の授業が全て終わりました。僕に関しては2日後に発表会を抱えていますが、それはまた別の話。テオは颯爽と帰ってしまいましたが、ラファエルとリュシアンには夏休みの予定をきいたりして軽く挨拶できました。

さて「当然行くでしょ」みたいな顔してルイが待ってます。女の子たちにも声をかけたら意外にも乗り気だったので、ルイ、アルテュール、ユン、イーチャオ、イェジン、僕の6人でバーへ行って打ち上げです。男女33でバランスが良いですねえ。

 

 

ウキウキでビールを待つイェジン。彼女は小柄で可愛らしい見た目にもかかわらず、酒もタバコも大好きです。韓国の女の子は皆そうなのかと思って訊いてみたら、彼女のようなタイプは少数派で、やはり女の子がタバコや酒をガンガンやるというのは好かれない傾向にあるとのこと。これは日本と同じ感じでしょうね。ユンはお酒は好きだけど弱い感じで、イーチャオは全く飲めないそうです。イーチャオに関してはルイがいつも残念がっている彼女のガードの固さゆえにそう言ってるのかもしれませんが。それでもこうして同席してくれるので嬉しいことですね。

 

しばらくするとルイのスマホに連絡が。これからガエタンが合流するとのことです。ガエタンは実はクラブのときに初めて出会ったのですが、あのときは名前を完全に忘れていたので日記には登場させなかったのです。その後も門下生コンサートに来てくれたりして何度か会っています。ガエタンは音楽家ではないのですが、アルテュールのルームメイトという関係でそのまま仲良くなったそうです。しかしその後ガエタンのおばあちゃんとルイの元カノのおばあちゃんが人口50人しかいない同じ村の出身で今でも非常に仲良しだということが判明し、とても驚いたそうな。いやはや世間の狭いことよ。

 

そしてガエタン到着。なんか妙な日本語の帽子をかぶってます。僕を見つけるや、「見てくれ! この前買ったんだけど、何て書いてるんだ?」と訊いてきました。

 

 

リプレイコンテナと書かれてますね。『えーっと……二つの単語で出来てて、リプレイがこうこう、コンテナがこうこう」と説明すると、「なんだそれ、メチャクチャじゃないか! なんだよ、日本語読めるって友達がこれいい言葉だとか俺に言ってきたから買ったのに!」と憤慨して、皆大いに笑いました。彼は本当にこの写真通りの気の良い奴です。これからは日本風にガエたんと呼ぶことにしましょうか。

僕『いやー外国人で日本語のタトゥーを彫る人多いけど、そのうちの90%は滑稽だったりするんだよね』
ルイ「わかるわかる。例えば、スーパーメロンパワーみたいな感じでしょ」
『そうそう。笑 あとはなんだろ、「私はビールが好きだ」みたいなのとか』
「あはは! それ見かけたら言ってやればいいんだよ、俺も俺も! って」
『はっはっは!』

なんだかわかりませんがこのとき大爆笑してしまって、涙が出るほどでした。フランス語で会話しててこんなに笑ったのは初めてですね。その程度には会話が上達してよかったです。

 

その後イーチャオと会話。「このアニメ知ってる?」と見せてきたのはなんと攻殻機動隊です。

僕『もちろんだよ。これは僕の年代のアニメファンにとっては義務教育みたいなものだ』
イーチャオ「そうなんだ、私これ大好きなの!」
『本当に? え、これ漫画も映画もアニメシリーズもあるけど、どれが好き?』
「漫画は見てないけど、押井版の映画とイノセンスと、アニメシリーズの2つは見たよ」
『あーすごいね! いや全然アニメなんて興味ないと思ってたから、びっくりしたよ』
「だって今回の共同制作プロジェクトのサイバーフューチャーってテーマも、これが元ネタだから」
『はえー、そういうことだったのか。いや今度ルイとアニメ鑑賞会をしようって話をしてて、そのときにも攻殻機動隊を候補の一つにしてたんだよ』
「へえ鑑賞会かあ。私も見たいなあ
『マジで!? ルイ、イーチャオが参加したいってさ』
ルイ「あーそりゃもう大歓迎だよ」

ルイはイーチャオのファンなので冷静なフリしてこれは内心ガッツポーズでしょうね。これだったらいっそ学校のスクリーン借りて上映会したくなってきましたね。ちょっと手段を色々考えておかないと。

 

その後21時頃になって、ユンとルイがラーメン食べに行きたいと言うので、近くにある博多ちょうてん3月以来の2回目の来訪です。

 

 

 

今回は僕は味噌とんこつを選んでみたのですが、んーこれだったら普通のとんこつか黒とんこつの方が美味しいと個人的には思いました。餃子は相変わらず美味しかったです。

 

 

22時過ぎて、ユンとイーチャオはここでお別れ。まだまだ飲み足りなさそうにしているイェジンと男衆でまた別のバーへ行きました。

 

 

僕もずっと付き合っていたかったのですが、翌日にコンサートのリハーサルがあるので日付が変わらないうちに先に退散することにしました。ルイは「そうか、残念だけど仕方ないね」と名残惜しそうにしてくれました。『次会うのはいつになるかわからないけど、まだ酒が残ってるからね、また一緒に飲もう』と約束して、最後にハグをして別れました。ルイは僕のコンサートの日に両親が現在いるフロリダへ出発するそうです。NASAに行ったらと提案しておきました。

 

振り返ってみるとなんだか色々あった1日でしたね。カレーにビールにラーメンに、結構散財してしまった気がするので、節約節約……(いつも通り)