ダネル弦楽四重奏団 ヴァインベルク全曲演奏会第2夜 2/5@CdlM [8.5]

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2月5日、シテ・ドゥ・ラ・ミュージックのダネル弦楽四重奏団「5夜連続ヴァインベルク祭り」の2日目コンサートへ行ってきました。これは5日間かけてヴァインベルク作曲の弦楽四重奏曲全17作品を演奏するという非常に珍しい企画で、(多分)現在世界で唯一ヴァインベルク全集の録音をしているダネル弦楽四重奏団にしかできないコンサートでしょう。

 

まずはヴァインベルクという作曲家についてお話しします。日本では演奏される機会がほぼないですし、音楽史の中でも中心にいるような人ではないので、知っている人の方がはるかに少ないでしょう。例のごとくWikipediaの解説を載せておきます。

ヴァインベルクは1919年生まれのポーランド人ですが、同時代にどんな人がいたのか。まずは彼に多大な影響を与えたショスタコーヴィチ(1906)から始まり、メシアン(1908)、ジョン・ケージ(1912)、バーンスタイン(1918)、クセナキス(1922)、ブーレーズ(1925)などが音楽史の主役たちです。ちなみに伊福部昭(1914)もこの時代ですね。

僕が思うショスタコーヴィチの音楽の3本柱は、「諧謔性」「熱量」、そして「瞑想」なのですが、これはヴァインベルクにも似ているところがあります。そして二人とも、戦後になって音楽史が大きな変革を起こした後でも、作風をそれに合わせて変えていくことはしませんでした。また近代以降の作曲家の中でも作品数がかなり多いところも共通してますね。

 

さて演奏内容についてですが、その前にお話ししなければいけないことがあります。それは僕とダネル弦楽四重奏団との出会いです。

実は彼らはこれまでに何度も札幌に来ているのです。初めて来たのが2005年、これは僕が足繁くコンサートに通うようになり始めた頃でした。当時からカルテットに一際強い関心をもっていた僕は当然彼らの初来日コンサートに行き、その演奏に魅了されてしまいました。それ以降も2年に1回ぐらいのペースで何度も来てくれたので、その度に必ず聴きに行ってました。

そんな彼らの演奏をパリで聴くことができるなんて思いもしませんでした。初めて公演情報を見つけたときは驚きのあまり「んほぉお!」と奇声をあげ、電光石火で5日全てのチケットを予約したのですが、その後冷静になって「ん? あれ、初日はオペラと被ってるやんけ!」と気づいてしまったのです。「おんごぉぉぉお…」と奇声をあげつつも、さすがにオペラのチケットをふいにするわけにもいかないので、泣く泣く昨日はそちらを選んだわけです。普段は食費を1ユーロ削るのに全力を尽くしてるくせにこれですから、世話ないったらありゃしないです。

 

そんなわけで本日の第2夜からの参加になった次第です。さてどんな演奏を聴かせてくれるのか。

 

プログラム

 

1. 弦楽四重奏曲第4番 (1945)
2. 弦楽四重奏曲第5番 (1945)
3. 弦楽四重奏曲第6番 (1946)

 

いずれもヴァインベルク26歳前後の初期の作品です。一度聴いてもらえばわかりますが、ヴァインベルクの曲はとにかく熱量が高くて演奏するのが大変です。それを1日で3曲のみならず5日連続でやろうってんだから正気の沙汰ではないと思ってしまうのですが、このダネル弦楽四重奏団、やってくれましたね。このカルテットの特徴はなんといっても1stヴァイオリンのマルク・ダネル氏の強烈な演奏スタイルなんですが、彼はもうエネルギーの塊みたいな演奏をするのです。非常に多彩な表情、一番後ろの席まで聴こえるような深い呼吸、感極まったときの膝を持ち上げて体を丸めながら演奏する姿、とにかく強烈です。

作品がもともと持っているエネルギーをさらに膨らませてやろう、という意気込みをドカンとぶつけられたような演奏でした。これは是非札幌のファンの方にも聴いてほしかったですね。

楽章単位で気に入ったのは第5番の3楽章。動画があったので聴いてみてください。演奏はもちろんダネルカルテット、第3楽章は11:30から2分程度です。

 

 

楽しい曲でしょう。これは短くて魅せる部分も多いのでアンコールにぴったりなんですね。事実彼らがアンコールでこれを弾いているのを僕も何度か聴きました。きっと彼らの十八番なのだと思います。

これを聴いて「おお、うまいなー」と思うでしょう? しかし今日の演奏はもっと良かったんだなあ。やっぱり録音となると端正な仕上がりを目指してしまうのですが、いやもちろんそれは重要なんです。でも彼らの真の持ち味ではないのです。

ダネルよりも「かっちりした」演奏をするカルテットはありますし、それはそれで魅力的です。それがカルテットの面白いところで、グループの数だけ魅力があり、目指しているところも違うのです。ダネルの場合は「隙がない」演奏よりも、多少隙が生まれようとも音楽の波やうねりといったものを追求しているのです。マルク・ダネルが全体をまさにうねるように引っ張りあげていくそのエネルギーは、生で聴いてこそ味わえるのです。これは雰囲気の話ではなく、音そのものが全然録音とは違います

 

「なんだよ、そんなこと言われても聴く機会がないよ」って? きっとまた札幌や東京に来てくれると思うのでチャンスを逃さず必ず聴きに行こうね!(宣伝部長)

 

 

いやー非常に満足度の高いコンサートでした。お客さんがまた良かったんですよね。みんな自分と同じ熱心なマニアなのかはわかりませんが、楽章間の咳払いはほとんどないし、静かに終わる楽章では物音一つ立てない。それでいて終わったら盛大なブラボーコールで、その一体感もまた気持ちよかったです。アンコールには「即興とロマンス」という小品をやってくれたのですが、マイナーすぎて音源が見つかりません。優しい曲で聴きやすかったので紹介したかったんですが。

宴は始まったばかり。明日以降も楽しみです。