アルゲリッチ&コヴァセヴィッチ 室内楽リサイタル 10/18@PdP [8.0]

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10月18日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、マルタ・アルゲリッチスティーヴン・コヴァセヴィッチの室内楽リサイタルに行ってきました。

コヴァセヴィッチはアルゲリッチの3番目の夫で現在はもう別れていますが、写真家の娘さんがいて両親のドキュメント映画を撮っています。邦題は『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』といういかにもな感じですが、原題は«Bloody Daughter»です。まあ与太話はさておき。

実は去年もこの時期にアルゲリッチがパリに来ていたのですが、チケットはとっくに売り切れていました。なので今回は半年前に予約したのですが、それでもある程度まともなのは真横の席しか残ってませんでした。さすがの人気ですね。

 

 

ご覧の通り満員御礼です。プログラムは最初の一曲のみコヴァセヴィッチのソロで、残りは全てデュオかトリオです。

 

プログラム

 

1. バッハ: 平均律第1巻4番
2. モーツァルト: アンダンテと5つの変奏曲 K.501
3. モーツァルト: ケーゲルシュタット・トリオ K.498
4. モーツァルト: ピアノ四重奏曲第2番 K.493
5. プロコフィエフ: 『シンデレラ』組曲(2台ピアノ編曲: Mikhaïl Pletnev)
6. ヘンデル(Johan Halvorsen編曲): ヴァイオリンとチェロのためのパッサカリア
7. プロコフィエフ: ヴァイオリンソナタ第2番 op.94 bis

 

1曲目のバッハは落ち着いた感じでなかなか。2曲目はアルゲリッチとコヴァセヴィッチの連弾です。

 

 

今回はアルゲリッチがファースト(高音部)だったのですが、個人的にはセカンドをやってほしかったですね。というのは、僕にとってのアルゲリッチの連弾というのはキーシンのアレの印象があまりにも強くて、ああいう下から支える演奏とやりとりが見てみたかったというのが本音ですね。Youtubeに動画があるので是非見てみてください。息子に対する慈愛の眼差しのようなアルゲリッチの視線と表情が見ものです。

 

Argerich and Kissin piano 4 hands – Mozart Sonata KV 521 (part 1/2)

 

いい演奏でしょう。いや今回のも素晴らしかったですよ。アルゲリッチは相変わらず衰えを感じさせないテクニックで、多彩な表情と絶妙な音色作りは今でもなお世界のトップレベルであることを感じさせられます。ただ連弾らしさということで言えばこの動画のほうがずっと面白かったですね。元旦那に対して色々思うところもあるのかもしれませんが。いや知らんけど。

 

 

続いてはピアノトリオ。本来はピアノ、クラリネット、ヴィオラのトリオなのですが、今回はクラリネットをヴァイオリンに代えています。

ピアノは日本人の酒井茜さんです。僕は存じ上げなかったのですが、この演奏を聴いて驚きましたね。とても素晴らしかったです創造的な伴奏という一言に尽きるのですが、余裕のあるテクニックでボリュームコントロールが優れているだけでなく、積極的にアンサンブルを作っていく姿勢が音にものすごく現れています。こんな人と演奏してみたいと心底思わされるようなピアノですね。まさかアルゲリッチのリサイタルでこんな出会いがあるなんて想像もしていなかったですが、いや本当に素晴らしかった。

 

 

続いてコヴァセヴィッチのピアノで四重奏。実を言うとさきほどのヴァイオリンはいまいちだったのですが、この曲のヴァイオリンとチェロはとても良かったです。ヴァイオリンがRaphaëlle Moreau、96年生まれの若手です。チェロはEdgar Moreau、こちらも94年生まれの若手で二人は兄妹です。「え、兄妹だったの!?」って今書いてて知ったんですけどね。

チェロは僕の席からだと完全に後ろ向きだったわけですが、それでも十分彼の演奏が優れていることはわかります。不思議で、そしてとても残酷なことでもあるのですが、室内楽におけるチェロというのは出だしの音を数秒聴くだけでアンサンブルに向いているのかどうか一発でわかるんですよね。それぐらい、他の楽器よりも高いソルフェージュ能力が求められるわけですが、彼は抜群にその能力が優れています。きっとカルテットをやらせても素晴らしいチェロになるでしょうね。この兄妹は間違いなく今後売れていくでしょう。

 

 

休憩明けて、次はプロコフィエフの2台ピアノ。アルゲリッチと酒井さんです。前半のモーツァルトから一気に時代が飛びましたが、この二人の創造性は変わらず素晴らしかったです。軽妙さと爆発力を両方兼ね備えていて、実にプロコフィエフ向きの演奏でした。

 

 

続いてピアノなしで、ヴァイオリンとチェロのデュオ。演奏は先ほどのエドガール・ラファエル兄妹です。原曲はヘンデルのチェンバロ曲で、それをパガニーニ風にと言いますか、名人芸をふんだんに盛り込んでデュオアレンジしたものです。もうすでにわかっていましたが、こういうのをやらせても二人は抜群のテクニックで、非常に正確な高速スケール(音階)や軽妙なリコシェ(弓の先の方で細かくバウンドさせる奏法)を披露していました。多分この曲が一番拍手が大きかったですね。誰のリサイタルだっけ?

 

 

最後はプロコフィエフのソナタ。ピアノはアルゲリッチです。このヴァイオリンの彼が前にいまいちだと言った彼だったんですが、この曲はさすがに頑張っていました。まあそれでも妹ちゃんにやらせてみてほしかったというのが本音ですね。きっとアルゲリッチと素晴らしいアンサンブルを生み出せたでしょう。

しかしそれにしてもアルゲリッチの伴奏は、本当に良いですね。「一般的に伴奏を成立させるために必要な遠慮」みたいなものがほとんどなく、かと言って伴奏が目立ちすぎるわけでもない。抜群にボリュームコントロールがされているのに、音楽性が一切失われていない。アンサンブルというのは楽器間の関係や役割がコロコロ変わるのが面白いわけですが、その立体感がとにかく豊かで面白い。誰しもがアルゲリッチを(特に若い頃は)その抜群のテクニックで褒め称えるわけですが、やっぱりそれ以上にこのソルフェージュ能力こそが彼女の真髄だと、生演奏を初めて聴いて強く再認識しましたね。

 

 

終了後は今回の出演者が全員ステージに集まって、花束を受け取っていました。それでも拍手が全然やまないので、

 

 

このようにステージ袖で誰がアンコール弾くのか会議をしてるのが面白かったです。結構長かったですよこれ。

 

 

元旦那が元女房に押し負けたのかどうかは知りませんが、結局コヴァセヴィッチがアンコールでバッハを披露。ちなみにこのやりとりが2回あって2回ともコヴァセヴィッチのソロでした。他のメンバーもステージで聴いてるのが面白い絵面ですよね。

 

そんなこんなで、素晴らしいリサイタルでした。先述した通り、アルゲリッチ目当てのコンサートだったはずが思わぬ出会いがいくつもあって、予想外の喜びに満ちた夜でしたね。だったらもっと点数あげてもいいはずなんですが、プログラムがちょっと退屈というのと、アルゲリッチもっと弾いてくれよというので、まあ今回はこれくらいにしておきましょう。