今期放映・配信しているアニメ『スキップとローファー』についての記事です。
今期のシリーズアニメでは、話題性では『推しの子』が、クオリティでは『水星の魔女』が目立っているという印象ですが、僕としてはこの『スキップとローファー』が水星の魔女にも引けを取らないくらいおすすめの作品です。
制作はP.A.WORKS、前期やってた『Buddy Daddies』は申し訳なくも1話切りしたのですが、とは言えここ最近のPAは良い作品が続いている、俗っぽく言えば打率が上がってきてるなあと思っています。
で、今回の『スキップとローファー』ですが、第1話からこれはかなり良いなあと思っていました。そして第3話が素晴らしかったんですよね。この回の絵コンテ担当が以前フェアリーゴーンのときに軽く触れた許琮という演出家なのですが、やはり彼がコンテを切ってる回は本当に質が高いなあと改めて感心しました。ところがびっくり第6話がそれをさらに上回るんじゃないかというくらい素晴らしかったので、その魅力を紹介したいなあと思った次第です。
ということでこれから第6話の内容をまるまる書いていくので、もしまだこの作品を見ていない方は是非見てください。仕事帰りで疲れていても気軽に見れるラブコメなので、多くの人におすすめできるタイプの作品です。まあネタバレが重要な作品ではないので、見ていなくても気になる方は続きをどうぞ。
さて言いたいことは色々あるのですが、まずは作画を中心にしながら時系列順に紹介していきます。スクショはニコニコから拝借しています。
OP明けて地元の親友ふみちゃんの恋バナを聞くみつみ。ふみちゃんの背景にあった豚のしっぽのような記号がスマホ越しに飛んでくるという演出なのですが、これがこの回の演出方針ですよという合図なんですね。ちゃんと序盤からこういうのを差し込むことが重要です。このあとみつみが差している傘にもぴゅーんと落ちてくるという繋ぎもグッド。
みつみ(とうとうこの日が……)
ここで音楽スタート
先生「○○さーん。岩倉さーん」
みつみ「はい(ドス声)」
みつみ(中間テストでは順位を少し……以下略)
ここは地味ながら実に上手いコンテだなと思います。確かに原作もこれっぽくはなっているのですが、この本編のようなセリフの重ね方と音楽の挟み方、その時間配列をこんなに上手くやれる演出家が果たしてどれだけいるんでしょうかね。ものすごく絶妙です。みつみのドス声の直後に普段の声のモノローグが続くというギャップも完璧ですよね。
先程のカットと見比べればわかりますが、みつみの胸についている、猫のような熊のようなバッジの顔がみつみの表情とリンクしています。他のカットでも同じようなのがありますね。これ自体はよくある演出ですが、やはりこれもこの回全体の演出とマッチしていて良いです。
久留米が豆乳パックを飲みながら椅子に肘をかけているカット、ここは原作にはないのですが、キャラクターが現れてて実に良いですね。原作との比較がなくてもここは好きなカットです。
志摩くんからのラインを見て驚くみつみ。この微妙に口が前に出てる(平面的に言えば左にずれてる)作画が良いですね。
その翌日、遅刻してきた志摩くんに挨拶されたときのみつみの表情。安堵と嬉しさと不安と怒りとが混じりあった、素晴らしい作画です。
Aパートの終わり、雨の音とホチキスの音だけが響く放課後の教室。音楽演出については後ほど取り上げますが、ここの一連のシーンを劇伴一切ナシで作り上げる方針は見事でした。
みつみ「お、こっ……て、は、ないけど」
この黒沢ともよの喋りはとても素晴らしいです。いやもちろん全部良いんですけどね、でもこういうのを聴くたびに感心させられます。
この後の志摩くんの「それはみつみちゃんにとっては、でしょ」の後、雨音の音量をわずかに上げてますが、それも劇伴をつけてないからこそできる演出ですね。
この目線をずっと上げて話すみつみのコンテと作画も良いですね。原作でもそうなってはいるのですが、こちらは顎をくっと上げて上を向いているのがレイアウト的によりわかりやすくなっています。芸が細かいです。
Bパート入ってみつみの脳内反省会。このデフォルメキャラの喋りもよかったですね。
その直後に志摩くんの美化された「それはみつみちゃんにとっては、でしょ」がありますが、このセリフ3回言わせてどれも違ってるのがさすがですねえ。江越彬紀の良い仕事です。それを見越しての演出も見事です。
志摩くんが親友の家に行って相談するシーン。「大丈夫なときはほっといたって大丈夫だし、ダメなときは何言ったってダメじゃん」という、ちょっと達観しているというか諦観しているようなセリフとこのレイアウトが見事にマッチしていますね。ニコニコでは「志摩くんの鎖骨がエロい!!」ってコメントがありましたが、それはわかりますね。セクシーさを感じる良いカットです。
からかい気味にみつみにアドバイスする江頭。すごくかわいく描けてるカットだと思います。
みつみにじゃれつく結月。このポフポフしている感じ、すきです。このカットなんでこんなに胸を打つんでしょうね。
この後、勇気を振り絞って志摩くんを呼び出し、みつみが自分の気持ちを伝えるシーン。
みつみ(息を吸う)
みつみ「志摩くんが来ないとつまんないから来てよって、言いたかっただけなんだ」
志摩(躊躇いのブレス)
志摩(息を吸う)
志摩「晩御飯別々とかよくあるし……以下略」
お互いが相手の誤解を解きたくて、勇気を出して自分の内側を曝け出す覚悟を、ブレスで表現しているわけですね。こういうのが優秀なコンテマンの仕事ですよね、見事です。みつみの「志摩くんが来ないと〜」のセリフ、初見で聞いたときに僕は少し涙が出ました。この情感は、声優界広しと言えども、黒沢ともよにしか出来ないと思ってしまいます。
志摩「みつみちゃんはさ、そういうの信じないでよ」
ここの志摩くんの表情も、実に素晴らしいです。
二人の誤解が解けて、曇天から晴れやかになるカット。みつみの周りに鳥が飛んでいます。まあこれは原作通りではあるのですが、こういう部分の演出が浮いてしまわないように、序盤からずっと布石を打っていた、と僕は解釈しています。仮にこの回の演出家の意図がそうでなかったとしても、話数の中での演出プランを統一するのは絶対に重要ですし、それがちぐはぐになってる作品を僕はたくさん見てきましたから、まったくそういう意識がなかったとは思わないですね。
この後のみつみのモノローグ、
「あれ……なんか蒸してない? 今日の最高気温は20度だって言ってたのに」
これはもう原作の脚本が見事ですね。気温がどうたらというのは、ギクシャクしたみつみと志摩くんの会話苦手部特有の天気デッキのくだりで消化しきってたと思ったら、ここでそれを活かしてくるというのは教科書のような見事な脚本です。そして、
この素晴らしい回の締めくくりに相応しい、素晴らしい表情です。
といったところで、ざーっと気に入った箇所を紹介してみました。
この回の絵コンテを担当したのは篠原俊哉、僕にとって魂の傑作である『凪のあすから』の監督さんです。やはりすごい人ですね。こういう、表面的には軽やかでストレスなく見れるように仕上げている中で、ちゃんと芯の通った文学性を忍ばせる演出ができる、素晴らしい演出家だと思います。こういった実力ある演出家を複数抱えてるのが今のPAの強みだなあと改めて思いますね。
さてこれで終わってもいいのですが、せっかくなのでマニアックな劇伴分析もちょっとやってみましょうか。