【アクースモニウム】Festival Présences électronique 2019 3/22-24@ラジオフランス

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3月22〜24日の3日間、ラジオフランスのアクースモニウムコンサート、Festival Présences électronique 2019 へ行ってきました。

なんでこの記事をすぐに書かなかったのかと言うと、最初の2日間は金返せ級のレベルだったので、全然感想を書こうという気になれなかったのです。でもさすがに3日間も行ってまったく触れないわけにもいかないなーと思っていたところ、最終日はちょっと面白い作品もあったので、それについて書きます。

 

 

プログラム

 

プログラムを見てわかるとおり、ほとんどの作品はタイトルすらついていないんですよね。それの意味するところは正確にはわかりませんが、本当にギリギリまで完成しなかったか、タイトルをつける類の作品ではないのか、まあどちらかでしょう。聴いた限りではどっちにもとれる、って感じですね。

 

なぜ感想を書く気になれなかったのかと言うと、ほとんどの作品がアンビエント傾向の強いものだったのです。一応Wikipediaの解説を載せておきますが、まあ今となってはアンビエントも幅が広くなってきたので、一括りに語るのは難しくなってきています。定義はともかくこのフェスティバルにおいては、基本的に1種類か2種類のシークエンスをわずかな装飾の変化だけでひたすら繰り返す、という作品ばかりでした。しかも20分近いものばかりで、まあとにかく飽きます。

一応言っておきますが、アンビエント作品を否定するつもりはありません。そもそも僕が学んでいる電子音楽はアンビエント作品と密接な関係にあるので、それを拒否する立場にあるわけがないのです。じゃあ何が言いたいのかというと、アニメ批評の評価基準と同じように、僕が音楽に対して求めているものではない、というそれだけです。

 

僕が音楽を、とりわけコンサートを聴きに行く理由は、発見推察集中・没頭のようなものを求めているからですが、アンビエントが目指す方向性は基本的にはそれの真逆と言えるでしょう。多くの作品が目指しているもの、そして聴く人が求めているのはリラックス瞑想夢遊感のようなものでしょう。もちろんそういうのを好んで聴く人がいるのは当然のことですから、それを否定するつもりは一切ありません。ただ単に僕が求めるものが「興味の持続」をいかに生み出すか、という点なのでそれはアンビエントとは違うというだけです。

 

まあそれを置いておくにしても質が低かったなというのが正直なところですが、最終日は2作品面白いのがありました。

一つは韓国の女性作曲家、Okkyung Lee«틈/teum (the silvery slit)» です。彼女はチェリストでもあるのですが、作品は録音済みの音源にステージ上で彼女のチェロを加えるというもの。録音済み素材もすべてチェロの特殊奏法による音です、多分。これを聴いただけでは彼女のチェロの腕前はわかりませんが、この作品と演奏に関しては非常に良くできてるなと思いました。即興的なパフォーマンスに慣れているというのもあるのでしょうけれど、マイクをうまく使った特殊奏法の音色作りは見事でした。何も見えない状態でこれを聴いたらすべてがチェロだけで作られているとは誰も思わないでしょうね。

 

 

 

 

もう一つがホンジュラス出身の作曲家、Low Jack の作品。こちらは全て録音素材だけの完全なアクースモニウム作品で、女性の声と背景のシンセシスが主な構成です。この声が面白くて、英語で “Hi, Siri” “OK, google” “Alexa”と、いわゆる日常のAIアシスタントデバイスにひたすら話しかけている素材を使っています。最初はそれが普通のものだったのが、だんだんヒステリックというか落ち着かなくなっていって、「私の手を握って慰めて」みたいな要求にエスカレートしていきます。

フランス人の作曲家が作るときには声素材を使うことがしばしばあって、それが言語愛が元になっているのかはわかりませんが、僕はあまり声ネタは好きではないんです。聞き取れないとかどうとかではなく、そういう方向に走る作品は得てして音楽的に面白みが薄いからです。ですがこの作品のような声ネタはとてもいいですね。発想が良いし、何をやろうとしているのかが非言語話者でもすぐにわかるのが素晴らしい。こういう発想は是非見習いたいものです。

 

 

 

最初の2日間で僕は相当げんなりしていたので最終日は行かなくてもいいかなと思い始めていたのですが、いやー行ってよかったですね。この日は直前にオルガンのコンサートがありましたから、パリ北東のフィルハーモニーから南西のラジオフランスまでコンサートのはしごをするという貴重な体験をさせてもらいました。それでも1時間程度で行けるので、パリのコンパクトさがよくわかりますね。