Festival Présences 2022(ミュライユ祭り)4日目 2/11@ラジオフランス

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毎年恒例の行事、パリ現代音楽祭 Festival Présences の時期がやってまいりました。過去の記事はこちらから。

 

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2020年のフェスティバルはコロナ騒動の直前だったのでギリギリ開催できたわけですが、昨年は無観客でオンライン開催となっていました。ちなみに昨年の特集作曲家はパスカル・デュサパンでした。

でもやはり僕自身はオンラインの視聴だと全然気合が入らなくて、やっぱり世界初演の作品は生で聴かなければ、ということで、今年は無事に観客を入れて開催する運びとなったので行ってきました。

 

 

今年の特集作曲家はトリスタン・ミュライユです。概要は日本語版Wikipediaにあるのでご覧ください。昨年同様、やはり海外から作曲家を招くのは難しい状況なので国内作曲家から選ばれたのだと思われます。しかしマイナーどころかむしろ大物作曲家で、同じフランスのグリゼーと共にスペクトル楽派の中心人物でもあります。

 

さて今回は色々と多忙なのもあって、週末の3日間だけ行くことにしました。まあそれでも1日に複数の演奏を立て続けに聴くのは本当に体力を消費するので大変です。では早速、4日目金曜日のプログラムを紹介します。

 

プログラム

 

Tristan Murail: «Portulan» (1999-2021) ※組曲中1曲のみ世界初演

最初のコンサートはミュライユの1作品のみ。タイトルは日本語にすると羅針儀海図、大航海時代に使われた海図のことです。フルート、クラリネット、ホルン、バイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ、打楽器の室内楽の組曲ですが、各曲で編成が異なるので毎回奏者が入れ替わっていました。最少だと2人のデュエット、8人全員で演奏するのは1曲のみでした。

序盤の数曲を聴いての印象としては、特殊奏法をほぼ使わずアンサンブルの書法も明瞭でありながら、ハーモニーの移ろいはかなり複雑であるという、いわば正統派という感じです。ハーモニーが複雑と言っても昨今によくあるような乱雑なものではなく、狙い澄ました洗練された響きを追求しているのだなとすぐわかります。こういう「耳を使った」作曲は実に大切だと、改めて思い知らされます。

途中から徐々に特殊奏法が増えてきましたが、と言っても弦楽器のスルポンハーモニクスや管楽器のブレス音・キー音系のものにほぼ限られているので、やはりアンサンブルの明瞭さは保持されています。

全体の書法としては、室内楽らしさというより小オーケストラといった印象が強いですね。これは僕の好みとは真逆なんですが、これはこれで良いと思います。途中ホルンがバンダ(舞台とは別の場所で演奏すること。今回は後方客席の隅の方)で演奏する場面もありましたが、なかなかうまく機能していました。

 

一つ気になる点としては微分音でしょうか。簡単に言えば半音よりもさらに狭い間隔の音程で演奏することです。この作品で微分音が使われていたかどうかは、正直わからないです。今のはそれっぽいなあという箇所はいくつかあったんですが、結局それって奏者のミスなのかどうか判断がつかないわけです。それはこの作品に限ったことじゃないんですが、遭遇する度に微分音って何なんだろうって思いますね僕は。この話題は次以降の記事でも触れましょう。

曲ごとの色合いの変化がそれほど大きくない点は個人的には残念ですが、この組曲一つで作曲家の個性が十分によく出ている良い作品だと思いました。6.0。

 

 

 

ミュライユ本人も来ていました。

では次のコンサートへ。

 

 

お次はうってかわってジャズオーケストラのコンサートです。

1. Christophe de Coudenhove (1963-): «En blanc and blue» (2016, 2021) ※改訂初演

フランスの作曲家。パリ高等音楽院でエクリチュールなどと共に電子音響音楽を学ぶ。後にIRCAMで研究。

まず目を引くのは編成です。

 

 

このようにハープ2台がデーンと置かれています。ジャズ作品でハープを使うのは、まあ僕は初めて聴きますね。プログラムを見ると1台はハープ、もう1台はブルーハープって書かれているんですよね。なんだそれって思って検索してもブルースハープ(ハーモニカのこと)しか出てこなくて情報が見つかりません。普通のハープと何が違うのか、有識者の方教えてください。ハープ以外にもマリンバやグロッケンなどジャズらしからぬ楽器がありました。

 

実際の曲は、これぞ現代音楽とジャズの融合、というよりごちゃ混ぜって感じです。記譜通りに演奏して現代音楽っぽい部分もあれば、指揮者が休んで奏者のアドリブに任せているジャズっぽい部分もあるという、そんな構成です。あーなるほどハープでジャズをやるとこうなるのかという個人的な新鮮味はありましたが、一つの音楽作品としては特に魅力を見出せるものではありませんでした。3.0。

 

2. Steve Lehman (1978-), Frédéric Maurin (1976-): «Ex Machina» (2021) ※世界初演

二人の共作なんでしょうか。うち一人は今回のオーケストラの指揮者です。

編成はほぼ通常のジャズオーケストラと同じ。IRCAMの委嘱作品ということもあって、当然ライブエレクトロニクスを使います。主な用途はソリストがアドリブをするときにそれに反応して何か音を鳴らす感じで、それ以外にも賑やかしで使われていました。5、6曲くらいの組曲だったと思いますが、どの曲も先ほどと同じように、記譜パートとアドリブパートの交替で作られていました。

 

これは先程の作品にも共通することなんですが、ここまでハーモニーが複雑になるともう何でもありだなって思っちゃいますね。一度に十二音全部の音が鳴ってるんじゃないかと思うほどにごちゃごちゃしています。もちろん通常のジャズでもハーモニーが複雑になることはありますが、それでもアドリブ以外のところではキャッチーなメロディーなりハーモニーなりを用意しておくからまとまりが生まれるのであって、全体がごちゃごちゃしっぱなしだと単純に飽きますね。だからどれを聴いても同じ印象にしかなりません。最後の曲だけは記譜部分をちょっと真面目に書いてる雰囲気はありましたが、それでもハーモニーの適当さは変わりませんでした。2.5。

 

 

まあこちらのプログラムは最初から期待はしてなかったんですが、やはり聴いてみないとわからないですからね。体験としては悪くなかったです(と言い聞かせる)。

 

 

終演が0時を越えるともう電車がないので地下鉄駅まで歩かなきゃいけないのがダルいところ。冬の寒さのピークは越えたのでそれがせめてもの救いです。さて明日からも頑張って聴きますか……