パリのラジオフランスで開催中の現代音楽フェスティバル、Festival Présences 2020の第3日目の紹介記事です。今年の特集作曲家、ジョージ・ベンジャミンについては初日の記事をご覧ください。前回はこちら。
この日は2つのコンサートがありました。このフェスティバルのコンサートは全てフランスミュージックのHPで聴くことができます。フェスティバルの特集ページはこちら(いつまでリンク先が生きてるかは不明)。
1つ目と2つ目は3月4日から、3つ目は4月1日から配信予定ということで、興味のある方はチェックしてみてください。
まずはオルガンコンサートから。
オルガンの演奏はThomas Lacôte。1982年生まれで、メシアンがオルガニストを60年間務めていたサントトリニテ教会でその後任を継いでいます。現在はパリ高等音楽院でレヴィナスのアシスタントとして分析の授業や20世紀以降のエクリチュールの授業を行っています。
1. Gérard Grisey (1946-1998): «Accords perdus» (1987)
オルガンコンサートと言いつつまずはグリゼーの2つのホルンのための作品。プログラムにある作曲者の言葉によると、「現在のF管ホルン(オーケストラで使われる最も一般的なホルン)は平均律に適応したテクニックによって運用されているが、私は原型のホルンを復権させる、すなわち平均律ではない自然倍音の可能性を追求すべくこの作品を書いた」とのことです。タイトルの『失われた調和』というのはまさにその意味という感じですね。以前紹介したリゲティのホルン協奏曲でも同じようなことを言ってましたね。
やりたいことはわかるんですが、正直作品としてはあまり面白くないです。これは微分音でも同じことですが、演奏者も聴衆の側も、平均律ではない音律で「これが正しい音なんだ」という確信に至るためには相当な工夫が必要なんだと思います。今のところ、僕にとってこの作品はまだそこには至っていないと判断しました。2.5。
2. Thomas Lacôte (1982-): «The Fifth Hammer» (2013)
続いてオルガニスト本人の作品。4手オルガンのための作品で、もう一人の奏者と並んで演奏していました。
現代オルガン作品なので音色の指示も厳密に定められてると思いますが、この作品では強烈な音はほとんど使用せず、柔らかい音色を中心に使っていました。ですが一部では低音でドリルみたいな音を使ったり、オルガンはこんな音も作れるのかと少し驚きましたね。
現代オルガンのハーモニーは7和音8和音が当たり前でかなり響きが複雑なものが多いのですが、この作品は比較的清明な響きが多かったと思います。かと言ってわかりやすいハーモニーというわけではなく、作曲者の独特な和声感が現れた面白い響きでしたね。ただ作品のスケールが小さめだったので、それを展開していくとどうなるのかが聴いてみたかったというのはあります。4.5。
3. Thomas Lacôte: «La voix plus loin» (2019) ※世界初演
同じくオルガニスト本人の作品。こちらはラジオフランス委嘱の新作。
オルガンとホルン2本という珍しい作品。ホルンはオルガンの両サイドの客席にそれぞれ配置されていました。
こんな感じ。この組み合わせで一体どうなるのかと思ってたのですが、面白い作品でした。ホルンとほとんど混ざり合うような音色をオルガンが使うところもあれば、明確に対比を作ってアンサンブルさせたり、左右に空間配置しているのを活かした音響もあって、バラエティに富んでいました。この音の想像力(創造力)は大したものですね。この組み合わせでもっと色々できそうだなという展望もあり、発明という点でも素晴らしいですね。6.0。
4. メシアン: «Messe de la Pentecôte» (1950)
最後はメシアンの30分あるオルガン作品。トゥーランガリラと同時期の作品ですね。
こうして改めて聴いてみると、やはりメシアンの和声法は絶妙だなと感心させられます。微妙に調性を想起させる響きをかすったり崩したりというのが上手いなと改めて思いました。構成面でも印象的なモチーフを使ってうまく組み立ててますね。良い作品でした。
では104スタジオに移動して、次は室内楽のコンサートです。
演奏はクラリネット、チェロ、ピアノトリオのTrio Catchです。クラリネットをヴァイオリンに替えればいわゆるピアノトリオというやつですが、こちらのトリオ編成も割と作品が多くあります。なのでトリオのレパートリーには困らないでしょうね。
1. Mikel Urquiza (1988-): «Pièges de neige» (2018) ※国内初演
スペインの作曲家。バスク地方にある高等音楽学校の後、パリ高等音楽院で学ぶ。フェスティバル初日の最初の曲で登場したGérard Pessonに師事。
最後の楽章でいきなり各奏者が空きビール瓶を持ち始めて、3人ともそれを吹いたり叩いたりし始めました。そして全員に口笛のパートがあるのですが、なかなか上手でしたよ。こういうの見る度に「いやー本当に現代音楽アンサンブルは大変やね」と思うことしきりです。4.0。
2. 藤倉大 (1977-): «Hop» (2019) ※世界初演
日本人作曲家が初登場です。藤倉大はこのブログでは去年の1月以来の登場ですね。そのときの記事はこちら。
3. Lisa Illean (1983-): «Février» (2019) ※世界初演
オーストラリアの女性作曲家。経歴については調べてもあまり出てこないのですが、2012年のメルボルンの音楽祭で注目され始めたようです。
ピアノがハーモニーをポーンポーンと鳴らす中で他2人がロングト
4. Christophe Bertrand (1981-2010): «Sanh» (2006)
フランスの作曲家。日本語版Wikipediaに記事がありました。まさしく早熟の天才でこれからの活躍が期待されていた中で夭折してしまった人です。
では最後にまたオーディトリウムに戻って、次は室内オケのコンサート。
といきたいところなんですが、感想を書いたメモが消えてしまったので、それがないと正直覚えてないです。いやーだからこういうのは早めに書かないといけないんですよね。
特にこのコンサートでは印象が極端に良いのも悪いのもなかったので、なおさら記憶が薄れています。なので4月にフランスミュージックで配信されたらそれを聴いて感想を改めて書く、かもしれません。それすら忘れそうなので。
こういうことがないように次から気をつけます。
次はこちら。