3月13日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、パリ管弦楽団のコンサートに行ってきました。指揮はヘルベルト・ブロムシュテット、御年91歳の超大御所です。
1. メンデルスゾーン: ピアノ協奏曲第1番
2. ブラームス: 交響曲第1番
まずはコンチェルト。ソリストはドイツ出身のマーティン・ヘルムチェン、N響との共演も以前あったようです。既にCDを多くリリースしていますが、ラインナップを見てみるとやはりドイツ物が多いですね。
率直に言って、見事な演奏でした。冒頭から力強いオクターブの響きで掴み、細かいパッセージも技巧性を見せびらかすのではなくしっかりコントロールされていて、コンチェルトのお手本のような演奏でした。決して大柄な体型ではないのですが、ピアノに対して技術とエネルギーの両面で余裕があって、見ていて非常に安心感があります。アルペジオやスケールが金属の球面のようにピターっと紡がれていく様は恐ろしささえ感じます。
1楽章から2楽章はピアノソロで切れ目なく繋がり、緩徐楽章の穏やかな終止を迎えた直後にトランペットとホルンが突然響いて3楽章が始まります。最後はフィナーレらしいリズミカルで飛び跳ねる音が多いのですが、これも音が派手に飛び散ったりすることが一切なく、あくまでも音楽に添うように、正確に丁寧に弾いていました。これはとんでもない技術です。これが世界トップクラスのテクニックなんだなと思い知りました。
まあ既に世界に知れ渡っている活躍をしていますが、今後もますます楽しみなプレイヤーです。
休憩明けてブラームス。前回第4番を聴いたばかりですぐに第1番を聴くことになろうとは。前と同様にバーンスタインが作品解説と演奏をしている映像があったので紹介します。日本語字幕つきです。作品概要はWikipediaからどうぞ。何かとエピソードに富んだ作品なので、全く知らない方は一度覗いてみるのが良いと思います。
まさかブロムシュテットのブラームスを生で聴ける日が来るなんて、昔の自分に教えたら驚くでしょうね。それぐらい伝説的な存在ですから。休憩中もなんとなく落ち着かない感じでした。さあ果たしてどんな音楽をきかせてくれるのか。
まず冒頭。ややゆっくりなテンポです。少し驚いたのは、実に「冷静な」響きだったことです。弦セクションはアタックをなめらかにし、ティンパニーもそれほど張りのある音ではありません。ドラマチック、というのとは真逆の方針と言えるでしょう。
これが全体を通しての印象でもあります。丁寧で冷静。同時に鳴っている全てのセクションに気を配り、感情に任せたような音は一切なく、この作品の緻密な構成を開陳するかのような演奏でした。理知的という形容がぴったりです。
しかし「味気ない」演奏ではまったくありません。というより、余計な味付けをしていない、というのが適切です。技術水準が高く、音の先端までコントロールされた響きはそれだけで十分魅力的です。まさに不思議なのがそこで、さすがにお年を召していらっしゃるのでそんなにエネルギッシュな指揮はしていないのですが、オケを大きく揺らしている時でもピタッと決まってるんですよね。なんなんです? あれ。全然理屈が理解できない。これはもう彼の下で演奏してみないとわからないことなのでしょう。
まあとにかく、この作品の新たな魅力に気付かされた、そんな演奏でした。オケも素晴らしかったです。木管セクションはどれも良かった。積極的に音楽を作っていこうという意欲がひしひしと感じられて、ああいうのが嬉しいですね。
終わったあとで全然拍手が鳴り止まないので何度も指揮者が登壇してくれるのですが、「あまり歩かせない方がいいのでは」という気がかりもあり、ああどうすればいいんだ状態。
いや身の回りの年配の方を想像してみてくださいよ。90歳で指揮を振れそうに見えますか? 僕のじいさんも2年前にちょうど90歳で亡くなったのですが、歩くどころか会話さえままならない状態でした。でもそれが普通です。そう考えると本当に信じられないです。彼のようなかっこいいジジイになれたら人生言うことなしですね。
ありがとう、偉大なるブロムシュテット。どうかまだまだ元気でいてください。