1月29日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、「Hiver Russe(ロシアの冬)」コンサートに行ってきました。
以下演奏順に紹介していきます。
1. 藤倉大 (1977-) «Glorious Clouds» (2016-17、国内初演)
今回このコンサートに来た目的の作品です。藤倉大は現役の日本人現代音楽作曲家の中では世界的に最も有名でしょう。かつて情熱大陸にも出演していました。僕が初めてフランスに来たときも、彼のオペラ『ソラリス』を聴きたいが為にわざわざリールという北部の町へ行ったのが懐かしいです。
今回の作品もソラリスと同様、とにかく響きが洗練されているというのが第一印象です。この前のアメリカンなコンサートとは方向性が真逆と言ってよい程で、これらを聴き比べたら同じ「現代音楽」でくくれるものとは到底思えないでしょう。無論どちらが良いという話ではありませんが。
特殊奏法の無機質な音色に頼らない、叙情的ながら複雑な色合いを秘めたオーケストレーションが見事です。弦のハーモニクスグリッサンドと木管セクションの融合、ただのアクセントにとどまらないワウミュートのトランペット、薄く全体を覆っているマリンバのトレモロが印象的でした。
演奏終了後に本人も登壇。生で拝見したのは初めてです。
2. プロコフィエフ: バイオリン協奏曲第2番
ソリストはフランス人のNicolas Dautricourt、経歴を見るとN響やアンサンブル金沢との共演経験もあるようです。一言で言えば、まさしくコンチェルト・ソリストにふさわしい技量と表現力を持った演奏でした。それは確かにそうなんですが…
僕はこの曲を初めて聴いたのですが、難儀な曲だなーとしみじみ思ったのです。例えば第1楽章のテーマなんかは耳に残りやすいし、対位法的な展開も面白くて、所々プロコフィエフらしい諧謔性が垣間見えるのが楽しかったりするのですが、全体的にオーケストラが良く響いてないというか、コンチェルトらしい豪華さに欠けるというか、そんな印象がずっと残る感じでした。これが楽譜の問題なのか演奏の問題なのか明確に判断するのは難しいのですが、僕には作品そのものに問題が全くないとは思えない、というのが正直な感想です。他の演奏を聴いてまた改めて考えてみますかね…
終わってアンコールに入ったのですが、演奏の前にソリストの人が色々と話していました。内容としてはコンサートマスターと旧くからの付き合いがあって、共演できたのが嬉しい、みたいな感じ。Alexis Cardenasという方なのですが、プログラムに「バイオリン・スーパーソリスト」と書かれてありますね。一体何なんだと思ったのですが、どうやらコンマスよりもさらに権限のある役職としてそういうのがあるみたいです。へえー…
その流れでアンコールを二人で弾くようです。
「今日のコンサートのテーマは「ロシアの冬」ということで、二人で演奏するのになにか良いのはないかなと色々考えて、ちょうどテーマに合うものを見つけました。それでは聴いてください、『スペイン』」
完璧な紹介で始まったのはチックコリアのスペインのバイオリン・デュオ版です。一方が伴奏音型を奏でながらもう一方がソロを弾く、というのを交互にやりながら、導入が終わったら二人してやりたい放題になってきて、実に面白いアンコールでした。ただただ楽しかったです。
3. ラフマニノフ: 『交響的舞曲』
ラフマニノフ最後の作品。大掛かりな編成で打楽器も7人。第1楽章のサックスのメロディーが素晴らしかったですねー、見事な演奏でした。オーボエ、コーラングレの応答も美しかった。チェロが高音部で朗々と旋律を奏でているのが実にラフマニノフらしい。迫力は十分な演奏だったのですが、弦セクションがもっとリズム点をパリッと演奏してほしかったところ。
先日のライプツィヒの緻密な演奏と比べてしまうとさすがに荒い部分が多いですが、そもそもプログラムが難しいので、その中では十分な演奏を果たしてくれたと思います。
帰りはまた吹雪でしたが、今回は傘持参だったのでセーフ。