Festival Présences 2020(ベンジャミン祭り)4日目 2/12@ラジオフランス

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パリのラジオフランスで開催中の現代音楽フェスティバル、Festival Présences 2020の第4日目の紹介記事です。今年の特集作曲家、ジョージ・ベンジャミンについては初日の記事をご覧ください。前回はこちら。

Festival Présences 2020(ベンジャミン祭り)3日目 2/9@ラジオフランス
パリのラジオフランスで開催中の現代音楽フェスティバル、Festival Présences 2020の第3日目の紹介記事です。今年の特集作曲家、ジョージ・ベンジャミンについては初日の記事をご覧ください。前回はこちら。この日は2つのコンサート...

 

このフェスティバルのコンサートは全てフランスミュージックのHPで聴くことができます。フェスティバルの特集ページはこちら(いつまでリンク先が生きてるかは不明)。

今回のコンサートは既に配信されています。Mercredi 12 février 2020 の日付の2時間28分のものです。興味のある方はチェックしてみてください。以下、作品が始まるタイムラインも合わせて記しておきます。

 

プログラム

 

演奏はフランス国立管弦楽団、指揮はPascal Rophéです。

 

1. George Benjamin: «Sudden Time» (1993)
-3mn 55s-

まずはベンジャミンの大オーケストラ作品。打楽器が6人います。

これまでのベンジャミン作品の中でも一番、響きも構成も混沌としている印象です。序盤のパルス音形のシークエンスは割と好きですが、それ以外に関してはそれほど面白いと思えるポイントはありませんでした。これだけ音響やアンサンブル書法を複雑にするならもっと「記憶の契機」になる仕掛けを施さないと、聴く側の興味を持続させることは出来ないと思います。3.5。

 

 

ハープの後ろにインドの打楽器、タブラが見えますね。オーケストラでタブラを使うのは初めて見るかもしれません。使い方は普通にポコポコ叩くだけなのでタブラっぽくなかったですけどね。ピアノもアップライトを用意してミュートしながら使っていましたが、そちらもそれほど効果的ではなかったと思います。

 

2. Julian Anderson (1967-): «Litanies» (2019) ※世界初演
-25mn 45s-

ラジオフランスの委嘱でチェロとオーケストラのコンチェルト作品。イギリスの作曲家。11歳から作曲を始め、ロンドンでのみならずパリでトリスタン・ミュライユにも師事。1993年にロイヤル・フィルハーモニック協会の作曲賞を受賞。

素晴らしい作品でしたねこれは。ピチカート多めのチェロのソロから始まり、しばらくはオーケストラの一部しか使わず薄い音響が続きますが、その中でもソリストとオケのアンサンブルのやり方が面白いですね。ソリストに過剰な特殊奏法はないものの、ピチカートやハーモニクスが目まぐるしく入れ替わったりするので、演奏難易度はかなり高いです。ですがよく弾きこなしていましたね。

部分的にはかなり複雑に音が重なってるんですが、前後関係でうまく調整しているので混沌としたよくわからない印象にはならず、合間合間で清明なハーモニーを用意しているので、全体としてスッキリした響きになってるところがすごいです。その中でソリストがかなり自由に動き回っているので、退屈させないようにもなっている。オケとソリストのバランスや立体感が本当に見事です。

打楽器の使い方も、全体的にかなり抑制的ながら実に効果的です。うまくアンサンブルの隙間に挿入しているので、目立つ音じゃなくてもはっきり存在感が示せているわけですね。そして後半の一番盛り上がるところで一気にエネルギーを爆発させるので、構成的にも実にうまく仕掛けられています。

曲の中盤でチェロの一番低いC線を下げるところがあって(36mn25sあたり)かなりリスキーだなと思いますが、その後のハーモニクスのシークエンスでそれをやるだけの説得力を主張しているわけですね(自然倍音ハーモニクスで狙った音を出すには開放弦の音高を変えるしかないという意味)。曲中で調弦を変えるのは現代作品では珍しくありませんが、ただ単に目を引く演出でやっている作品とは雲泥の差があります。ちなみにその後の37mn20sあたりでガサガサ鳴っているのはオケ全員が足で床を擦っている音です。これはちょっとした遊びと言えばそうなんですが、こういうのをうまく挟むことで先述した「記憶の契機」に繋がるんです。こういうのもうまいなーと感心させられます。

 

個人的には、少なくとも「現代コンチェルト作品」という括りではこれまで聴いてきた中で最も素晴らしい作品です。全てのオーケストラ作品に広げても最上位レベルであることは間違いありません。この魅力の正体が何なのか、これから何度も聴きまくって分析しようと思います。これが録音で残っていてしかも無料で聴けるなんて、本当にありがたい。8.5。

 

 

3. 藤倉大 (1977-): «Twin Tweets» (2019) ※世界初演
-1h 23mn 10s-

前回に続き再び藤倉の登場。今回はラジオフランス委嘱の2本のクラリネットの作品。

プログラムノートには「この編成で依頼されたときに、まず2羽の鳥が空を飛ぶ絵が浮かんだ。個人的に鳥の鳴き声というものにはそれほど興味を惹かれないが、鳥が空を飛ぶときの動き方には興味がある。2羽の鳥が空を自由に飛び回り、やがて私たちの大地へ近づいてくる様子を描いた」とのこと。

短い作品ですが面白い曲でした。同じ音形のアンサンブルが多いですが、ハーモニーやメロディーの作り方はさすがといったところ。短い時間の中でもしっかり構成されてて良かったです。最後の限界までディミヌエンドして終わっていくところもいいですね。5.5。

 

 

4. ブーレーズ: «Figure-Double-Prismes» (1964、改訂1968)
-1h 35mn 15s-

最後はブーレーズの大オーケストラ作品。ステージいっぱい使って特殊な奏者の配置をしています。

この作品は昔にCDでしか聴いたことがありませんでしたが、改めて聴いてみると時代を感じますね。まあ60年も前なので当たり前なのですが。決して甘いハーモニーやリズムアンサンブルが許されなかった時代の作品だなとつくづく感じました。先ほど絶賛したチェロコンチェルトなんか聴いていると、現在の潮流はブーレーズの指し示した未来とは別な方向へ進んでいるのかなと思います。まあもちろん今でもブーレーズ的に作曲している人はいますけどね。

 

 

いやー素晴らしい出会いがあって非常に嬉しいです。コンサート一つだけだと感想を書くのが楽でありがたい。

 

次はこちら。

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