2020年のパリで行われている第9回カルテットビエンナーレの特集記事です。前回はこちら。
今回のカルテットはアルディッティ弦楽四重奏団(Arditti Quartet)です。1974年に現在もなおリーダーを務めるアーヴィン・アルディッティによって創立。現代音楽専門のカルテットとしておそらく世界で最も有名で、世界中の現役作曲家から彼らへの初演依頼が絶えないそうです。2017年にNHKが『究極の対話~弦楽四重奏の世界~』というカルテットの特集番組を放送して、そのときにも出演していました。日本語版のWikipedia記事もあったので、興味のある方はそちらもどうぞ。
1. Clara Maïda (1963-): «…, das spinnt…» (2013) (国内初演)
2. Christian Mason (1984-): «This present moment used to be the unimaginable future…» (2019) (世界初演)
さすが専門集団だけあってプログラムも全て新作です。残念ながら僕はストライキの影響でトラムが遅れに遅れて最初の曲に間に合いませんでした。ほんまにもう……
会場に着いたらギリギリ2曲目が始まる前でしたので、まあ不幸中の幸いです。というわけで2曲目、日本語訳で『今この瞬間は、かつて想像もしなかった未来』の紹介です。イギリスの作曲家で、2014年に日本でも彼の新作初演が行われました。全4楽章で20分。
ステージには4人分の椅子と譜面台があるのに、なぜか中央にチェロとヴィオラがいるだけで、残り2人の姿が見当たりません。準備が遅れてるのか? と思っていたらそのまま演奏が始まりました。するとステージにいないはずのヴァイオリンの音が聴こえてきます。少し後から気づいたのですが、舞台の両袖にそれぞれのヴァイオリンが隠れていて、そこから演奏しているようです。
割と瞑想的な雰囲気で、特殊奏法も過剰なビブラート以外はほとんどありません。調性的ではないですがハーモニックな作品です。1楽章の終わりで両サイドからゆっくり歩きながらヴァイオリンが登場。そのまま着席してその後の楽章に続きます。楽章構成になってますが律動的な調子になるわけでもなく、割と似たような雰囲気で最後まで進み、ラストは全員が持続的なシークエンスを演奏しながら立ち上がり、そのまま舞台の袖へ消えていって、その後も1分くらい遠くの方からぼんやり音が聞こえつつ終了。そんな作品でした。チェロも歩きながら演奏してましたからね、器用なもんです。
音楽的には悪くないと思うのですが、室内楽としての面白さや和声法がそれほど魅力的ではなかったですね。あとは最初と最後の演出もそれほど効果を生んでいるとは思わなかったので、その点は残念です。5.0。
3. Betsy Jolas (1926-): 弦楽四重奏曲第8番«Topeng» (2019) (世界初演)
ラストはフランス人女性作曲家の作品。1925年生まれのブーレーズとほぼ同い年の大御所作曲家です。第二次大戦の前にアメリカに移りピアノとオルガンとエクリチュールを学び、戦後翌年にパリへ戻りミヨーやメシアンの下で作曲を学ぶ。歴史的な名前しか出てこなくてすごいですね。
作品はやはりこの年代らしいと言いますか、僕の印象では80年代から90年代っぽい作風に感じました。特殊奏法をほどほどに使いつつ、点描的で湿っぽさのない感じです。先ほどの作品に比べると確かに室内楽的な書法としては洗練されているなと感じつつも、音楽そのものはそれほど興味が惹かれるものではありませんでした。4.0。
演奏はさすが手慣れた感じでしたが、作品の性質もあいまってそれほど技術を見せるような場面はなかったですね。僕は「現代音楽専門集団」というのが必ずしも良い面ばかりではないなと思っていますが、今回に関しては2つとも初演としてはまずまずだったのでは、という感じです。また改めてお目にかかりたいものですね。
次はこちら。