3月27日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、パリ管弦楽団のコンサートに行ってきました。指揮はDuncan Ward、イギリス出身で作曲家でもあります。
1. デュティユー (1916-2013): «Métaboles» (1964)
2. シューマン: チェロ協奏曲
3. ストラヴィンスキー: ペトルーシュカ (1911年原版)
最初はデュティユーの作品。彼自身の概要はWikipediaをご覧ください。簡潔に言うと、メシアン(1908)、ブーレーズ(1925)と並んで、フランスの近代から現代への音楽変遷を語る上で絶対に外すことのできない作曲家の一人です。
作品については東京音大の藤田茂先生が書いた論文が非常に詳しくて勉強になります。リポジトリから読むことができますが、ある程度の前提知識がないと難しいでしょう。
作品の概略を簡単にまとめると、デュティユーが交響曲1番、2番を書いた後に作られた3番目の大規模管弦楽作品で、伝統的な交響曲の枠組みからの離脱を図った、彼の作品のうち最も有名な一つです。作曲者の言葉を先ほどの論文から引用します。
くると、形の変わり方が際立って、最初のモチーフに真の性質変化を与えるほどになる。
このようにして、次々と新しい音形が生み出される結果となり、新しい曲に移るごとに、
[生み出された新しい]これらの音形が、新たな展開のもとになる。しかし、最終的には、
この作品の終結部が示しているように、《メタボール》で取られた形式の奥に透けて見え
るのは、「循環する時間」のアイデアである。
難しいですが、要は「統一と多様性」というあらゆる芸術の根源的な理想に対する一つの回答ということです。
もともとデュティユーがクリーヴランド管弦楽団の木管楽器を聴いたときに大いに感動したのがきっかけになっただけあって、作品も管楽器が非常に重要な役割を担ってます。今回の演奏はそれに十分応えうるような、繊細な木管楽器の響きをうまく実現していたと思います。またこの時期からだんだんと重要になっていく打楽器群もうまく響きの中に溶け込んでいて、指揮者の優れたコントロールが伺えます。
ガッティ指揮のフランス国立管弦楽団の映像を紹介しておきます。
続いてシューマンのチェロコンチェルト。ソリストはGautier Capuçon、フランスのチェリストでお兄さんもヴァイオリニストです。作品は全楽章が切れ目なく演奏される珍しいタイプで、この前聴いたメンデルスゾーンのピアノコンチェルトと同じです。
有名なドヴォルザークのコンチェルトなどと比べると華やかさには欠けるかもしれませんが、高音域のパッセージが多かったり2楽章のオーケストラチェロとの絡み、終楽章の重音の難技巧など見所もたくさんあります。
演奏は正確にきっちり整えられていて印象は悪くないのですが、言ってしまえば色気が足りないというか、終始「聴かせどころ」に欠けるなあという感じでした。2楽章のチェロ同士の絡みはとても良かったんですけどね。
今Youtubeを検索していたらイッサーリスが演奏している映像を発見したのですが、これはすごいですよ。もし生で聴いていたらスコア9.0以上は確実です。申し訳ないですが今回の演奏とは次元が違うと言わざるを得ません。是非一度聴くのを勧めます。
最後はペトルーシュカ。火の鳥と同じくストラヴィンスキーが後年に短く編曲したバージョンも存在するのですが、今回は原版の演奏で嬉しいですね。
演奏はデュティユーのときと同様、管楽器が非常に高水準でした。特にクラリネットとトランペットが素晴らしかったですね。トランペットはソロで目立つ箇所が多いのですが、どの部分でも欲しい音がきっちり来る感じでとても好印象でした。
一方で弦セクションは悪くはないのですが、もっと厚みが欲しいなという場面で薄かったり、弦同士のコントラストがおとなしすぎる感じでしたね。これが指揮の方針なのか他の理由によるものかはわかりませんが、もったいないなと思ってしまいました。
プログラムは実に僕好みで良かったです。ストラヴィンスキーの作品はどれも好きなのですが、いつかハ調の交響曲を生で聴いてみたいですね。全然演奏機会がないので難しいですが、僕の夢の一つです。