1年ぶりのコンサート記事です。いやーこんなにも長い間コンサートに行かなかったことなんて、高校生のとき以来一度もなかったですね。なので僕自身の鑑賞能力も衰えていると思われるので、これから少しずつリハビリしていきましょう。
というわけで、10月13日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、パリ管弦楽団のコンサートに行ってきました。
1. コルンゴルト: ヴァイオリン協奏曲
2. ストラヴィンスキー: 火の鳥(1919年版)
3. ドビュッシー: 海
実は前日にメールが届き、今年からパリ管の常任指揮者になったクラウス・マケラが体調不良のため、前任のダニエル・ハーディングが代演を務めることに。クラウス・マケラはまだ25歳の超若手でその指揮ぶりを楽しみにしていたんですが、これは非常に残念です。なので今回のプログラムはいつもの冊子ではなくペラ1枚のみ。曲目も変更されています。
今回コンサートマスターを務めたのは日本人の千々岩英一さんという方ですが、彼のツイッターによると2日間のリハを終えた直後に指揮者急病で、たまたまパリにいたハーディングがゲネプロから参加して本番を迎えたようです。彼は「こういうことはあまりしたくないが演奏会というのは基本的に中止にできないものらしい」と書いていますが、心中お察しします。
果たして演奏の内容はどうなるか。
1. コルンゴルト: ヴァイオリン協奏曲
コルンゴルトは1897年モラヴィアの生まれ。音楽史の世代的にはストラヴィンスキー以後の、プーランクなどのいわゆるフランス6人組と呼ばれる人たちと同世代。さほど有名な作曲家ではないので日本で聴く機会はまあ滅多にないと思われます。僕自身コンサートで聴くのは初めてです。
そんな彼の作品の中でもこのヴァイオリンコンチェルトは有名で、一般的にも人気があります。ソリストはルノー・カピュソン、wikipediaによるとハーディングとは長い付き合いのようですね。今回の緊急事態の中でもここは不幸中の幸いといったところでしょうか。またこの記事に楽器はガルネリを使ってると書かれていますが、道理でねっていう感じです。めちゃくちゃ良い音してましたからね。「億の音がするなあ」と思いながら聴いてました。
作品そのものはwikiにも解説がある通り、映画音楽のモチーフに基づいて作られているため、全体的に甘いハーモニーとメロディーで劇伴風の調子が続きます。なので一般ウケは悪くないんですが、裏を返せば舞台音楽としては退屈ということにもなります。まあチェレスタやグロッケンがこんなに目立つコンチェルトというのは珍しいというか他に例を知らないのでその点は面白いんですが、それ以外はさほどの見所もないなというのが個人的な感想です。
演奏そのものはこの作品に合った、甘く響かせつつもきちんとソリストらしい音色を保っていたので、きちんと仕事をしてるなという印象でした。この事態ということを加味しなくても悪くない演奏だったと思います。
2. ストラヴィンスキー: 火の鳥(1919年版)
さて問題がこれ。そもそも僕はこの1919年版自体があまり好きじゃありません。要はオリジナル版のハイライトメドレーなわけで、そうなると各曲がチャチく聴こえてしまうんですよね。なので演奏目標として「最初から背負っている大きなマイナスをいかに埋めていくか」みたいになってしまうので、そんな後ろ向きなものを好き好んでは聴かないというのが僕の意見です。
で、ハイライトとはいえやはり火の鳥は演奏難易度が高いんです。アンサンブルは崩壊とまでは言わなくとも崩れてる箇所は結構多かったですし、演奏者同士の意思の疎通がうまくいってないし指揮者もそれを修正できてないしで、まあ正直言って褒められる演奏ではなかったです。いくら一流のパリ管とはいえ指揮者が本番ぶっつけで演奏できるような作品ではないってことですね。
3. ドビュッシー: 海
それを踏まえると最後の海はかなりまとまった演奏ができていましたね。さすがにそこはお国の意地か、それとも相当慣れているおかげか。ホルンアンサンブルは相変わらずきっちり仕上がっていましたし、他の金管群も繊細な演奏ができていました。弦も良かったです。個人的にはハーディングの、あまり間や余韻を残さないスタイルが好きではないので、もうちょっとそこ大事に拾ってくれよっていう箇所は少なくなかったんですが、さすがにそこまで要求するのは酷でしょうかね。
さて以上です。会場はご覧の通り、席を一つずつ空けたりせずに通常通りお客さんを埋めています。まあさすがに指揮者はコンマスやソリストと握手はせず、グータッチを交わしていました。
まあ万全な状態とは程遠い演奏内容でしたが、経験としては悪くなかったです。こういうことは誰の身にも起こりうることですからね、ピンチのときでも最低限の品質を守れるプロの意地を垣間見た思いです。