2020年1月〜3月期のアニメシリーズの各作品第1話だけの評価です。今回は10作品を紹介します。
致命的なネタバレみたいなものは避けてるので、まだ作品を見ていない方でも参考にして頂けると思います。
「名作アニメは第1話の時点で既に名作である」という持論があるので、この時点での評価がのちに急落することはあっても急騰することはないと思っています。もしあったらゴメンナサイします。
評価基準についてはこちらをご覧ください。MALはMyAnimeListの現時点のスコアと投票人数です。
ではいきましょー!
A+ 映像研には手を出すな! (MAL: 8.20/11k)
原作未読、ですが岡田斗司夫の番組(Youtubeリンク)でゲスト出演しているのを2年前の当時見ていたので、原作の雰囲気と作者の人柄については多少知っています。大童澄瞳が2016年から連載している漫画が原作。制作は湯浅政明監督が代表を務めるサイエンスSARU。前期『ヴィンランド・サガ』に続くNHKの深夜枠アニメ。
今期の大本命。ほぼ間違いなく今期の大賞作になるでしょう。ここ最近は長編作品が続いていた湯浅監督がまたシリーズものを作ってくれないかな(デビルマン? 知らない子ですね……)と思っていたら、今作の監督を務めると発表されて、「ああこれは絶対良い作品になるな」と確信していました。そして実際、その期待に見事に応えてくれた第1話でした。
女子高生3人組がアニメ制作をするお話。原作が絵柄だけでなく漫画としてもかなり特異ですが、それを非常に見事にアニメーションに落とし込んでいると思います。原作ファンがアニメに対して言ってる不満の中心は、原作1話最後の見開きで描かれている「最強の世界」の描写だと思いますが、確かにそれはわかります。僕もあの場面はアニメーションで丹念に描かれるのが見てみたいと確かに思いましたが、それ以外の箇所に関しては、原作にないアニメオリジナルの演出や脚本の付け足しがとてもうまくいっていると僕は評価しています。
冒頭で浅草の子供時代から始まるのがつかみとして良いですし、屋上でスケッチしているのが芝浜高校になっていて子供時代からの成長を感じるところも、席を移ろうとして結局移れないところも、黒服から逃げるところのドリフ的なドタバタも、窓に当てたスケッチブックがずり落ちてからの水崎の「私のも破っていいよ」も、その後の浅草の「私は設定が好きなんスよ」を夕日を向こうにした横顔にしたのも、妄想の中の一連の逃亡劇も、すべて原作にない演出ですがどれも僕は好きです。昨今はとかく「原作に忠実な」アニメ化が求められますが、原作に忠実(漫画のコマと同じレイアウトでアニメ化し、余計なことはしない)にしたからと言って面白いアニメが出来るわけじゃないのは言うまでもなく自明なことです。僕は少なくともこの第1話に関しては、湯浅監督のオリジナル演出をほぼ全て好意的に見ています。
声については、もうなんと言っても浅草(声:伊藤沙莉)の素晴らしさに尽きますね。これが湯浅監督の真骨頂ですよ。こういうキャスティングができるから本当にすごい。これは僕にとって「一度聴いてしまったらその人以外考えられない」という、いわゆる正解のキャスティングというやつです。声質も演じ方も、浅草というキャラクターとこのアニメ全体のデザインに完璧に合っています。しかし本人が本当に上手ですね。これがアニメ声優初挑戦だとは思えないくらいです。水崎(声:松岡美里)もアニメ初出演ですが、こちらも良いです。フレッシュさがモデルという役柄にマッチしてて、良い方向に作用していますね。そしてその二人を支えるように金森(声:田村睦心)にベテランを起用するのも素晴らしい。声については文句のつけようがありません。
音楽もいいですね。担当のオオルタイチという名前は存じ上げなかったのですが、『ピンポン』であのペコのテーマ曲を作ったのが彼なんですね。ずっとあの曲も牛尾憲輔が作ったのだと思っていました、これは知ることができてよかったです。「最強の世界」のところで使われている音楽が今作のテーマ曲なのかなという気がしますが、これもアニメ全体のデザインにとても合っています。この後のエピソードでも新曲が楽しみですね。
これから以下で今期他のアニメをいろいろと紹介しますが、時間がなくて忙しい人はこれだけ見ればいいと思います。むしろこれは「どれだけ忙しくても何が何でも見ろ」レベルです。ここまでの文章を読んでしまった以上必ず見ましょう。
A 推しが武道館いってくれたら死ぬ (MAL: 7.20/1.6k)
原作未読。平尾アウリが2015年から連載している漫画が原作。制作は前期『星合の空』のエイトビット、シリーズ構成は赤尾でこ、監督は『ヤマノススメ』などでおなじみの山本裕介。
地下アイドルを熱烈に応援する女ヲタのお話。正直言って「女アイドルが好きな女」という題材にそこまで惹かれないなと最初は思った(自分が女でもアイドル好きでもないからですかね)んですが、第1話を見ただけでも「ああこれは確かに女主人公じゃないと成立しない話だな」と納得させられましたし、単純にコメディーとしてよく出来てるなと思います。第1話では「好きな臓器なに?」が一番好きですかね。
主人公のえりぴよ担当が『ダンベル何キロ持てる?』でひびきを演じたファイルーズあい、来ましたね。彼女は「い段」の発音が特徴的なのですぐわかりましたが、ひびきよりも低い声域で新たな魅力が出ています。やはり彼女は上手い。なによりシャウトがうまいですね。このキャスティングは見事ですし、『ダンベル』よりもさらに彼女一人の負担が大きいでしょうから、とても楽しみです。ED曲が「桃色片想い」、これは面白いチョイスで編曲もいいですね。
第1話はコンテ・演出がとても良かったので、この調子が続いてくれればかなり良い作品になるでしょう。楽しみが多い作品です。
A ドロヘドロ (MAL: 7.53/4.9k)
原作未読。2000年から2018年まで連載していた林田球の漫画が原作。制作は昨年夏『さらざんまい』のMAPPA、監督は林祐一郎。
内容自体も面白いのですが、なにより興味深いのはこれが3Dアニメであるということですね。おそらくアニメを見慣れていない人だと3Dだと気づかないのではないでしょうか。前期『BEASTARS』のような、3Dであることを前面に出しつつその強みを活かしたスタイルはもちろん素晴らしいのですが、今作みたいな手描きにかなり寄せた3D表現は実に興味深いです。これまでもモデリング自体を手描きに寄せた作品は数多く作られてきましたが、これはモデリングだけでなく動かし方やコマの割り方なども工夫を凝らして、新たな3D表現に挑もうとする姿勢が感じられます。
そして美術もまた素晴らしい。美術監督は木村真二、これまでも『スチームボーイ』や『鉄コン筋クリート』、また昨年の『海獣の子供』でも美術監督を手がけた方ですが、画面の中での表現力が凄まじいですね。薄汚れた、薄気味悪い、しかし人の生活がそこにあるのを感じさせる世界観を余すところなく表現しています。3Dモデルとの相性も良いし、画面の情報量が常に多いので本当に見飽きません。
主人公・カイマンの声が高木渉。実に見事なキャスティングですね。主役クラスで彼の声を聞くのは僕はこれが初めてなのですが、第1話だけでとても魅力的な演技に満ちています。もう一人の主役・ニカイドウが近藤玲奈、僕は初めて聞く声ですね。ちょっとフレッシュすぎる(婉曲表現)かなという気もしますが、カイマンとの対比を考えるとこれはこれで悪くないのかもしれません。今後の話数でどうなっていくか。
音楽が『フェアリーゴーン』の(K)NoW_NAME。フェアリーゴーンも別に音楽自体は悪くなかったんですが、今作はとても良い感じですね。OPが映像もあいまって面白いですし、OP明け直後のインダストリアルな音楽や、病院での諧謔的なシーンや、恵比寿が食われるところなど、音楽もその使い方もどちらも良いです。ここらへんはシリーズ通して期待できそうですね、今後の新曲も楽しみです。
全体的に高いレベルでまとまった第1話、もし多少グロテスクな描写や小汚い世界観が苦手でなければ是非とも見るべきですね。最後までこのクオリティを保ってくれそうな期待感で満ちています。
B+ pet (MAL: 6.46/4.6k)
原作未読。『イムリ』などで知られる三宅乱丈が2003年から連載し完結した漫画が原作。制作は『ゴールデンカムイ』のジェノスタジオ、監督は大森貴弘。
タイトルとキャラデザで「ああこれは腐女子向けのBL作品かな」と思って完全スルーするつもりだったのですが、「2話まで見たらすごく面白い」という意見を割と目にしたので、半信半疑で見てみました。なるほど確かに面白かったです。本来これは第1話評価なのですが、今回は例外的に2話まで見た感想を書きます。若干のネタバレを含むので、まったく情報のないまま見てみたいという人は以下を読まずにまず本編を見てください。
他人の記憶の中に入り込み、それを作り変える能力を持つ男たちのお話。なんですが、第1話だけだとそれすらよくわからないです。夢なのか現なのか、錯覚なのか能力なのか、それがはっきりしないまま第1話が終わり、第2話で全てが明かされる作りになっています。1クールに膨大な量のアニメが作られ1話切りが頻発する昨今、このやり方はちょっと冒険的すぎるかなと思いますね。なので初回だけ1時間スペシャルにすれば良かったのではと思うんですが、それは出来なかったんでしょうかね。
時系列を複雑にしている(1話→2話→1話ラスト→2話ラストが本来の時系列順)のも別に必要ないんじゃないかなとも思ったのですが、それぞれの話数で一旦切るということを考えると、この方が話数ごとのまとまりが良いのは確かなんですよね。ここらへんのシリーズ構成は難しいです。
冒頭の画像、良いでしょう。この作品を象徴する良いカットだなと思いますね。この2話Bパートになってからがこの作品の本領発揮で、なるほどアニメとしての面白さを追求できそうなポテンシャルを感じます。これに引けをとらない演出が今後も続くならかなり良い作品になると思います。
キャラデザも作画もそれほど魅力的ではありませんが、見る価値は十分にある作品だと思います。第1話後半の乳首舐めでノンケの男性諸君は引いてしまう可能性が高いですが、そこはぐっとこらえて是非第2話まで見てもらいたい、というノンケの僕からの提案です。
B 虚構推理 (MAL: 7.60/9.3k)
原作未読。城平京が2011年から刊行しているミステリー小説シリーズが原作。キャラクターデザインは2015年から始まった漫画版に準拠。制作はブレインズ・ベース、僕にとっては『一週間フレンズ。』以来ですね。監督はナデシコのキャラデザで知られる後藤圭二。
脚本や演出は平凡な印象ですが、物語の土台は面白そうです。キャラクターデザインも妖怪など含めていい感じですね。声については、キャスティングというよりディレクションの方が気になりますね。もう少しヒロイン・琴子(声:鬼頭明里)にゆっくり喋らせてほしいというか、演技を膨らませる余裕が欲しいなと個人的には思います。彼女を魅力的に描けるかどうかがかなり大きな比重を占める作品でしょうから、そこらへんは綿密にやってもらいたいですね。
この第1話だけではこの後どういう風にシリーズを展開させるのか予測がつかないので、その点は楽しみにしています。
B 異種族レビュアーズ (MAL: 7.59/8.3k)
原作未読。天原が2016年から連載している漫画が原作。制作は昨年『女子高生の無駄づかい』を作ったパッショーネ。監督は小川優樹。
いわゆるRPGなんかに登場するような多様な種族とヤリまくるお話。話題性で言えば今期で一番でしょうかね。確かに企画としての目の付け所は良いと思います。第1話で一番気に入ったのは画像のクリムくんがふぐりからフェードインするカットですね。おそらくアニメ的な面白さを追求するのが難しい作品だと思うので、こういう演出を今後も期待したいところです。今のところ若干コンテがダルい感じなので多少の不安はありますが。
OPED曲の担当がゴールデンボール篠崎と書かれていますが、なんか見覚えあるなと思ったら『ダンベル何キロ持てる?』のOPED担当のシックスパック篠崎と同一人物ですか。いやはや、大したものです。さすがに前作ほどのインパクトはないですが、今回のOPEDも良い仕事してますね。ED後半のキック音がやたら本格的なのが笑ってしまいます。
それにしてもクリムくん担当の富田美憂を最近やたら見かける気がします。昨年冬に『荒野のコトブキ飛行隊』、春に『ぼくたちは勉強ができない』、夏に『女子高生の無駄づかい』、秋に『放課後さいころ倶楽部』と、なんだか毎クール僕がチェックしている作品に出演しているので、すっかり売れっ子になったんですね。上で紹介したドロヘドロにも出ています。実力は十分なので、是非息の長い声優になってもらいたいですね。
B イド:インヴェイデッド (MAL: 7.51/7.3k)
2018年に『アンゴルモア 元寇合戦記』を手がけたNAZ制作によるオリジナルアニメ。監督は『Fate/Zero』などで知られるあおきえい、シリーズ構成・脚本は作家の舞城王太郎。
僕が紹介する中では今期唯一のオリジナルアニメですね。冒頭の導入の仕方が面白かったですし、謎に満ちた世界の中でのタネの明かし方もなかなか練られていたと思います。手がトコトコ歩いて娘の足を動かすカットが良かったですね。
主人公・酒井戸の声が津田健次郎、これは今のところ何とも言えないですね。キャラデザとはそこまで噛み合ってるとは思わないんですが、おそらく彼の一人語りがこのアニメの主軸になりそうなので、それに耐えうる声優を選んだということなんでしょうかね。今後キャラクターの内面が描かれるにつれてどういう印象になっていくのかが見ものです。
キャッチーなキャラデザでもないですし、SFファンタジー的な世界観の中でのミステリーということで、見る人を選びそうな作品です。アニメとしての面白さを果たして追求しきれるのかというところに不安があるのでこの評価ですが、これから面白くなっていく余地はそれなりにありそうです。
B ソマリと森の神様 (MAL: 7.68/9.3k)
原作未読。暮石ヤコが2015年から連載している漫画が原作。制作はサテライトとHORNETS、監督は安田賢司。
人間が他種族に食われるような世界の中で、森の神であるゴーレムが人間の子供を拾うお話。このアニメ最大の見所である絵本的世界観の美術が良いですね。音楽も美術に合っていますが、後半のゴーレムがソマリを見つけたところだけは音楽が要らなかったですね。終始音楽をソマリの感情につけるような使い方をしているので、あそこは対比的に無音の方が演出としては活きたと思います。
キャスティングについて。ソマリの水瀬いのりは良い役者だと思いますが、第1話を見る限り、今作に関しては他のキャスティングの可能性も考えたいという感じはあります。おそらくソマリの「子供らしさ」をどう描くかがこの作品の大きな比重を占めるだろうと思われるので、声そのものか演じ方にもっと新鮮味が欲しかったというのが正直なところですね。今後続きを見ていく中でその印象を覆してくれることを期待しています。
「やさしい世界」と「ヌルい物語」というのは表裏一体なので、安直な感動路線で終わってしまわないように祈っています。
B ランウェイで笑って (MAL: 7.55/3.2k)
原作未読。猪ノ谷言葉が2017年から連載している漫画が原作。制作はEzo’la、監督は長山延好。
パリコレ出演モデルを目指す少女のお話。原作は少年マガジン連載の漫画ですが、アニメを見る限りストーリーにしてもキャラデザにしても少女漫画の流儀になってますね。アニメのキャラデザは悪くないと思います。
第1話の掴みとしては上々でしたね。A、Bパートの切り方も良かったです。作画はすごく高品質というわけではないですが、安定して完走してくれそうな雰囲気はあります。音楽がアニメでは珍しく、バリバリのEDMを使ってるのも面白いです。気になったのは声の音質が妙なところが多かったですね。録音をミスしたということはないでしょうから、音響編集でミスしたのを気づかずに通してしまったんでしょうか。今回だけであることを祈りたいですね。
おそらくずっと王道的な展開が続くでしょうから大化けする可能性はほぼないと思われますが、題材は興味のある分野なのでその点は楽しみです。というのは、個人的な話ですが今ちょうど身近にパリで活動中のモデルがいますからね(このブログでよく登場するアレ)。奴にもこの作品を見せて感想を聞いてみたいところなので、今度紹介してみます。
(余談。第2話が僕にとって相当良くなかったので、視聴中断する可能性が高いです。)
C ダーウィンズゲーム (MAL: 7.40/15k)
原作未読。FLIPFLOPsが2013年から連載している漫画が原作。制作は昨年オリジナルアニメ『グランベルム』を作ったNexus、その各話演出を担当していた徳本善信が監督。
いわゆるデスゲームもの。初回は1時間の特別編。シナリオは平凡……というか終盤の即落ちヒロインでもう見るのやめようかとも思ったくらいなんですが、音楽や音響周りが結構気合入っているのが気になるので、もう少し様子を見てみようかといったところ。演出も別段語ることはないですが、この画像のカットは妙なことやってましたね。これってセル部分を解像度上げながら拡大していってるということなんですかね? あんまり見たことない手法だったので少し気になりました。
僕が原作のレビューをちらっと見た限りだとあまり評判がよろしくないようで、まあデスゲームものをダレずに長期連載するのは極めて難しいので当然だとは思いますが。なので過度な期待はせずに見てみます。
以上! 10作品の紹介でした。
今のところA評価以上が3つということで、個人的にはかなり豊作のシーズンです。「B評価が多すぎるんじゃないか」というのは僕も思うのですが、それぞれの作品がなにかしらの美点を持っていて、それを活かしきれば化けそうな感じはするんですよね。なので、映像研はそりゃあダントツで楽しみですが、それ以外も概ね最後まで完走してしまうんじゃないかという気がしています。前期からの『ちはやふる3』もあるし、そんな時間あるのか……
いつも通り、ご意見は大歓迎です。「お前は全然わかってねーな!」というお叱りをお待ちしています。もちろん挙げた以外に面白い作品があればそれも教えてください。