4月3日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、パリ管弦楽団のコンサートに行ってきました。指揮はダニエル・ハーディング、現在のパリ管弦楽団第9代目音楽監督です。
1. モーツァルト: ピアノ協奏曲第22番
2. マーラー: 交響曲第7番
まずはモーツァルトのコンチェルトから。ソリストは Kristian Bezuidenhout 、南アフリカ共和国生まれのオランダ人ピアニストです。古楽器の演奏家としても知られていて、モーツァルトの全集録音などもしています。彼がピアノの歴史について話してる動画があるので紹介しておきます。英語ですが。
演奏はさすがモーツァルトの専門家だけあって、技術水準の高いものでした。モーツァルトらしいトリルのかけ方なんかは見事でしたね。ただ欲をいえば、この前のヘルムチェンのときのような、糸を引くようなスケールの滑らかさみたいなものはなかったので、一度あれを聴いてしまうと、というのはありますね。ただ彼自身も巨大なグランドピアノでモーツァルトを演奏するのは難しいと語っているので、専門であるフォルテピアノ(モーツァルトの時代のピアノ)での演奏を是非聴いてみたいものですね。
さてメインのマーラーです。マーラーの7番は僕にとって思い入れの大きい曲なのです。なので少しばかり自分語りをさせてください。
時は2005年の2月。これはちょうど僕がピアノを習い始めた時期で、将来音楽の道に進むなど微塵も考えていなかった頃です。ヒゲもないし、ボウズでもないし、メガネもしていませんでした。まだ汚れる前だったということです。そのころベートーヴェンのソナタを初めて弾いてその難しさに悪戦苦闘していたのですが、先生が参考に貸してくれたCDがバレンボイムの全集録音でした。それほどクラシックに興味がなかった当時はその名前すら全く知りませんでした。ただそのCDは当時の僕にとって夢中になるほど魅力的で、何度繰り返し聴いたかわからないほどです。
そうしてバレンボイムにハマっていた最中、なんと札幌にバレンボイムが来るというではありませんか。場所はもちろんコンサートホールkitaraです。当時から現在もなおバレンボイムが音楽監督を務めているシュターツカペレ・ベルリンを引き連れて、ベートーヴェンの弾き振りをするというのですから驚きです。ただやはり世界級のオーケストラだけあって、チケットの値段もなかなか高いものでした。コンサートに行く習慣のない人間がいきなり1万円以上のチケットをポンと買えないのは容易に想像がつくでしょう。なんですが、それはkitaraの主催事業コンサートだったので、その場合kitaraの会員になるとチケットが割引で買えるのです。当時の学生会員の価格は500円か1000円で恐ろしく安くて、そのコンサート1回だけで十分お釣りがくる計算なので、会員になってチケットを買いました。まあそれでも良い席を選んだので結局1万円前後だったと思います。
そして当日。2月の札幌は当然雪まみれで寒いですが、僕はダッフルコートを着て自転車でホールへ行きました。僕は真冬でも自転車に乗って日々生活していたのですが、まあそれは全然関係ないのでまた今度。
プログラムはベートーヴェンのピアノコンチェルト2番と、マーラーの7番です。ここにつながるんですね。
正直ベートーヴェンの演奏は、映像としては記憶にあるのですが、音はほとんど覚えていません。なんせ14年前ですからね。でも、マーラーの音は今でも鮮明に、はっきり覚えています。それまでCDでヴァイオリンやピアノの演奏を聴いて、すごい!とかうまい!という感動は味わったことがありましたが、ただただ純粋に、音楽の波に飲まれて感動をしたというのは初めてのことでした。あまりにも心地よかった。完全に音楽の世界に没頭して日常の中に生きていることを忘れていました。
そうそう、ちょうどその時期に『ショーシャンクの空に』を初めて見たんですよ。レンタルビデオで(DVDじゃないですよ、VHSです)借りて見たのですが、あれはいたく感動して、「この先映画でこんなに感動を味わうことなんてもうないんじゃないか」と思ったくらいだったのですが、まさかこんな形でそれ以上の感動を味わえるなんて想像もしなかったです。もちろん比べるものじゃないんですが、衝撃度が全然違ったのです。
結局、このコンサート1回がその後の全てを変えました。もちろんこれだけじゃなく他にも様々な影響はありますが、それでもこの夜の影響はとんでもなく大きかったのです。その後コンサートチケットやCDを買うのに、それまで貯金してあったアルバイト代とお年玉を全て費やして、バカみたいにkitaraに通う日々が始まりました。その中には以前にも紹介したダネル弦楽四重奏団もありましたし、ギトリスやアーノンクール、レオンハルトなど伝説級の演奏家たちに出会うことができました。もちろん東京に比べれば札幌は田舎なんですが、こうして魅力的なコンサートを沢山やってくれたkitaraには感謝してもしきれません。
そして今、僕はパリにいます。
作品の概要は例によってWikipediaをみてください。この写真で右側やや前方にギターやマンドリンが写ってるのが見えますかね。この作品はこういう特殊な楽器が多いです。打楽器もカウベルなんかがあったりして面白いんですよ。
さて指揮の特徴を一言で言うなら、バリっとしたコントラスト、これに尽きるでしょうか。テンポの緩急や音色の変化など、瞬間的にガラッと変えてしまうダイナミックさがありました。
結論から言うと、かなり、かなりよかったんですよ。この作品は70分超えで非常に長大なのですが、最後までまったく飽きることはありませんでした。管楽器は相変わらず全てが高水準ですし、打楽器はグロッケンやティンパニーを始めかなり難易度が高い箇所も多いのですが、どれも見事に決まっていました。是非とも言わねばならないのはホルンですね。マーラーの中でも7番はホルンの活躍が目覚ましいのですが、この日のホルンは本当に素晴らしかったです。どうなんですかね、パリ管のホルンは世界最高級なんじゃないですかね、今。どこにもケチをつける瞬間が見当たらなかったです。エネルギーもテクニックも、見事という他ありません。
まあこれも欲を言えばっていうことなんですが、やはり弦楽器ですかね。ソリストはよかったんです。2楽章のチェロや3楽章のヴィオラ、4楽章のヴァイオリンを始めところどころで弦のソロが出てくるのですが、それは全て見事でした。ヴィオラは特によかったですねー、ショートヘアの女性でした。もちろんコンサートマスターも素晴らしかったです。
ただ先ほども言ったように、指揮者がかなりダイナミックにコントラストをつけるので、弦楽器全員がそれについていけてるわけではない、というのが少し残念でした。もちろんそれでも高水準なのは間違いないんです。だから欲を言えば、という話なんです。
まあとにかく、非常に満足したコンサートでした。今のところ、オーケストラ部門では今年度ナンバーワンのコンサートです。室内楽部門はダネルの2日目ですかね。
まあもちろんあれだけ思い入れを語ったくらいですから、冷静な評価ができてないのでは、というのは当然です。でも9.0をつけてはいませんから、一応客観的に聴けたと自分では思っています。
前回のマーラー4番のときと同様に、アバド&ルツェルン祝祭管弦楽団の映像を紹介しておきましょう。ギター、マンドリンが登場する一番特徴的な第4楽章は44:30〜なのですが、ここだけ抜き出して聴いたらやはり味わいが薄まるので、できれば全て通して聴いてもらいたいですね。比較的人気のない7番ですが、僕は好きですよ。マーラーの中で2番目に好きです。