パリのラジオフランスで開催中の現代音楽フェスティバル、Festival Présences 2020の第2日目の紹介記事です。今年の特集作曲家、ジョージ・ベンジャミンについては初日の記事をご覧ください。前回はこちら。
この日は2つのコンサートがありました。このフェスティバルのコンサートは全てフランスミュージックのHPで聴くことができます。フェスティバルの特集ページはこちら(いつまでリンク先が生きてるかは不明)。
1つ目は2月19日から、2つ目は2月26日から配信予定ということで、興味のある方はチェックしてみてください。ちなみに今回はベンジャミンが一切登場しません。まあそんな日もあります。
まずはカルテットから。
演奏は去年のフェスでも登場したディオティマ弦楽四重奏団です。
1. Tom Coult (1988-): 弦楽四重奏曲 (2017) ※国内初演
イギリスの作曲家。マンチェスター大学の後にキングスカレッジでジョージ・ベンジャミンに師事。今作の初演は2018年にロンドンでアルディッティカルテットによって行われています。
何もないタイトルですが、5楽章構成の作品。ハーモニクス・グリッサンドみたいな特殊奏法はちらちらありますが、全体的には割とハーモニックな作品。
それぞれの楽章の冒頭の素材はかなり良いと思うんですよ。キャッチーで、個性的で、発展可能性もある。僕も作曲のときはかくありたいと思っている、理想的な素材です。ただ、それをどのように展開していくのかが聴きたいのに、その前に音楽が終わってしまったり全然別な素材へ移ってしまったりして、せっかくの素材が非常にもったいないな思います。楽章構成の作品というよりは5つのキャラクターピースといった感じで、まあそれはそれでいいんですけど、せっかくなら腰を据えた一纏まりの作品が聴きたかったですね。5.0。
2. Oscar Bianchi (1975-): 弦楽四重奏曲第3番 «Sintonía» (2019) ※世界初演
プログラムが変更になり、こちらの曲が先に演奏されました。
イタリアの作曲家。ミラノのヴェルディ音楽院で作曲・合唱指揮・電子音楽を学んだ後に、ニューヨークのコロンビア大学で博士号取得。今回の作品はラジオフランス委嘱の新作。
先ほどの作品に比べるとかなり響きは雑然としています。微分音なのか奏者のピッチの悪さなのかが判別つかないところも結構多かったのですが、いずれにしろそれほど効果的ではなかったですね。後半で結構激しくなる箇所があるのですが、途中でファーストのA線が切れてしまいました。
先ほどのリンク先と同じ、去年のフェスでもアンテルコンタンポランのチェリストの弦が切れてしまうということがありましたが、あちらはそこそこの人数のアンサンブルだったのでそのまま突っ走りましたが、さすがにカルテットの作品で弦が切れてしまったらおしまいですから、一時演奏を中断してファーストは弦を張り直しに退場しました。これも前回話した通り、作曲というのはこういうリスクも含めて考える必要があるので、決して運が悪いだけの話でもありません。3.0。
3. Tristan Murail (1946-): «Sogni, ombre et fumi» (2016)
トリスタン・ミュライユは昨年70歳の誕生日コンサートを行ったレヴィナスと同じくスペクトル楽派の一員の作曲家。でもWikipediaにスペクトル楽派と呼ばれることを嫌ってるみたいに書かれてますね。
正直言って非常に退屈な作品でした。素材も展開の仕方も何も工夫が見られなくて、本当に耳で聴いて作ってるのか甚だ疑わしいです。しかも長いし。1.0。
4. Augusta Read-Thomas (1975-): «Selene (Moon CHariot Rituals)» (2015) ※国内初演
最後はカルテットに4人の打楽器アンサンブルが加わった作品。
アメリカの女性作曲家。王立音楽アカデミーで学んだ後、グッゲンハイム・フェローに当時最年少で選ばれる。現在はシカゴ大学で作曲を教えている。
基本的に打楽器はシロフォン、ビブラフォン、マリンバなどの鍵盤系がメインで、合間に他の楽器がちょこちょこ入るような感じ。ハーモニーやリズム点などはさすが洗練された雰囲気なのですが、この変わった組み合わせを活かした音作りというのはあまり感じられなかったですね。あとはどうしても鍵盤打楽器の方がカルテットよりも音量が出てしまいますから、そこらへんのバランスも計算が少し甘かったように思います。まあこれは演奏の問題かもしれませんけどね。4.5。
次は104スタジオに移動して合唱のコンサートです。
1. Harrison Birtwistle (1934-): «The Moth Requiem» (2012) ※国内初演
作曲者の日本語版Wikipedia記事がありました。「マンチェスター楽派」なるものがあったんですね、知らなかったです。せっかくなので後で調べておきます。
さすがにハープ3台は持て余してるような印象を受けました。
2. Sasha J. Blondeau (1986-): «Urphänomen II. B» (2020) ※世界初演
フランスの作曲家。リヨン高等音楽院で学んだ後IRCAMへ。今作はラジオフランスとIRCAMの委嘱。
これまで聴いてきたライブエレクトロニクス作品の中ではピカイチ
3. リゲティ: «Lux Aeterna» (1966)
リゲティの男女混声合唱アカペラ作品。1年前にラジオフランスで行われたコンサートの映像があるので紹介します。
これは歌うのがかなり難しいですね。一人一人が相当な精度の相対音感を持っていないとうまくいかないでしょう。実際にこれが楽譜通りに理想的に歌えているのかも判別がつかないです、少なくとも僕にとっては。
これが正確な歌だとして、ハーモニーの色合いの変化を主体とする作品にしてはその変化がそれほど面白いものでもないなと思います。強弱による立体感を活かしてもっと面白い仕掛けができるんじゃないかなという気がします。歌う側にとってはソルフェージュのとても良い訓練になりそうで楽しそうですけどね。僕も一度参加してみたいです。
4. Unsuk Chin (1961-): «Fanfare chimérique» (2011、改訂2019) ※改訂世界初演
作曲者の日本語版Wikipedia記事がありました。韓国の現代作曲家はほとんど知らないのですが、彼女は多分韓国では大御所なのではないでしょうか。リゲティに師事していたんですね。
ブラスバンドとエレクトロニクスの作品。こちらもやはりライブエレクトロニクスなのかミクストなのかはわかりません。演奏が音楽院の学生によるものだったので必ずしも満足のいくものではなかったかもしれませんが、それでも楽器の書法そのものがあまり面白くなかったですね。電子音響の組み合わせ方もさきほどのものと比べるとかなり扱う技量の差があるなと思いました。3.5。
いやー2曲目の作品は素晴らしかったですね。早くも今年のフェスティバルの個人的最優秀作品が決まってしまったかという気がします。配信されたら是非聴いてみてください。
次はこちら。