【カルテット祭り】ファインアーツ弦楽四重奏団 1/13@CdlM [5.5]

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今回のカルテットはファインアーツ弦楽四重奏団Fine Arts Quartet)です。1946年にシカゴ交響楽団のメンバーで結成された歴史あるカルテットで、これまでに200作品以上の録音実績があります。1982年からリーダーがRalph Evansに引き継がれ、現在まで続いています。リーダーは初代と二代目の二人だけですが、他のパートはもっと代替わりをしていて、ヴィオラは現在が11代目です。

 

プログラム

 

1. ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第2番
2. ショスタコーヴィチ: 弦楽四重奏曲第1番
3. ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第9番『ラズモフスキー第3番』

 

古典的なプログラムですね。まず最初のベートーヴェン。これまで若いカルテットが続いていたので、その対比もあって出だしからいきなり「ベテランの風格」を感じさせるような印象を受けました。きっちり綿密に打ち合わせられた演奏ではなく、各人が自由に弾いていながら自然とアンサンブルが合うような、そんな雰囲気です。ひたすら弾き慣れてるという感じですね。

しかし、僕もサラリサラリと弾くスタイルは好きなんですが、彼らの場合は「圧倒的な技術を持っていて余裕のある演奏をする」というのではないんですよね。極端に言えばロビーコンサートっぽいというか、余裕というより気楽に流してる印象の方が強いです。だからあくまでベテランっぽい雰囲気だけで、実際はピッチ感も良くないし、細かいところは結構誤魔化しも見られるし、あまり好意的に受け止められる演奏ではなかったですね。

とは言え前回のぶきっちょなベートーヴェンと比べれば完成度は全然違うので、そこらへんはさすが古典を専門にしているだけあるなとは思いました。

 

 

このヴィオラの風格、いいですよね。僕が過去に見たカルテットの中で一番巨大なヴィオラ弾きですよ。見た目はすごく僕好みなんですが、音が見た目と全然合ってなくて本当に残念でした。もっと見た目通りのエネルギー溢れる音が欲しかったです。

 

続いてショスタコーヴィチ。シンフォニーで有名なショスタコですが、カルテット分野でも欠かすことの出来ないとても重要な作曲家です。全15曲のカルテットを遺しています。

今回は第1番。ベートーヴェンが作品番号2番で、つまりキャリア最初期にカルテットを書き始めたのに対し、ショスタコの第1番は作品番号49、彼が32歳のときの作品です。ショスタコのシンフォニーの中で最も有名な第5番(作品番号47)よりも後に書かれています。これは苦手だからとかではなく、それほど準備して真剣にカルテットに取り組もうとしていたと見るべきでしょう。

第1番は書法的には後の作品に比べればまだおとなしいですが、和声感や展開の仕方には既にショスタコの個性が強く現れています。ショスタコの演奏では多彩な表情の使い分け、つまり演技力がとても重要だと僕は思っているのですが、その点はイマイチでしたね。絶妙な和声を表現するのにももっとピッチに気を遣ってほしかったところです。この曲はヴィオラの活躍シーンが多いのですが、先述した通りあまり魅力のないヴィオラで、んーとにかくもったいなかったです。ヴィオラ弾きでもある僕としては、なんであんな見せ場をその程度の音で通り過ぎてしまえるのか、理解できないですね。

 

休憩明けて最後のベートーヴェン、奇跡か何かが起きて名演奏にならねーかなーとわずかに期待していたのですが、そんなことは当然なく、技術的にもこれまでの中で一番難しいのでより粗が目立つ結果で終わってしまいました。

 

 

ベテランの風格ある演奏を期待していまいたが、少し残念な結果でしたね。演奏において「仕掛けてやろう!」という意欲は本当に重要で、それはベテランであってもまったく変わらないはずです。どんな分野であってもその心意気を忘れないようにしたいものですね。

 

次はこちら。

 

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