1月9日、フィルハーモニー・ドゥ・パリで行われた、パリ管弦楽団のコンサートに行ってきました。
パリの大規模ストライキが始まって一ヶ月以上が経ちましたが、日に日に状況が良く……なってるわけではありません。相変わらずほとんどのメトロは止まっていますし、バスも不定期運行なので信用できるものじゃないです。そしてこの日は大きなデモ行進があったので、いつもに増して交通機関が麻痺していました。動画を紹介しますがとても長いので飛ばしながら見てみてください。いかにもパリらしい光景を眺めることができます。
この日は授業があったんですが、学校行きのバス停を全て回ってもどれも運休でした。それどころか封鎖されてる道路も多くて渋滞ばかりだったので、タクシーでさえほとんど動けない状態だったでしょうね。これから歩いて行ったところで1時間以上遅刻するのが確定してたため結局サボってしまいました。それで帰り道に買い物してから帰宅して、コンサートの時間まで仮眠してから会場へ向かいました。幸いトラムは動いていたので助かりました。
さて、今回の指揮者は昨年3月にも紹介したヘルベルト・ブロムシュテットです。ひょっとしたらあれが最後のチャンスかもと思っていたので、また聴けるのはとても嬉しいですね。
1. モーツァルト: ピアノ協奏曲第23番
2. ブルックナー: 交響曲第4番『ロマンティック』
プログラムも前回と似たような感じで、前半にピアノコンチェルト、後半にシンフォニーとなっていますね。
開演時間になると、フルートの奏者がマイクを持って話しはじめました。正確に聞き取れなかったのですが、どうやら今回のデモの影響でステージ担当の技術スタッフが来られなくなってしまったようです。なので舞台照明を使うことができないとのこと。それなら公演中止も仕方ないところなのですが、オーケストラ団員も指揮者もどうしても演奏したいという意欲があったので、今回は舞台照明なし、衣装も自由で演奏することに決めたそうです。これには演奏前から拍手喝采でした。
これは休憩明けに撮ったものなのですが、休憩中だからということではなく、演奏中もずっとこの照明です。そしてよく見ると団員も私服の人が半分以上です。さすがにこんな雰囲気のコンサートは初めてですし今後も二度とないでしょうね。気分としては公開リハーサルでも眺めているような感じです。いやリハーサルでも普通照明はつけますけどね。
まあとにかくそんな状態で開演。まずはピアノコンチェルトです。
おそらくモーツァルトのコンチェルトの中でもこれは有名な曲だと思います。特に2楽章ですね。劇伴っぽい雰囲気の楽章で、僕自身映画か何かで耳にした記憶がありますし、調べてみると実際いくつかの映画作品で使われているようです。ポリーニ独奏、ベーム指揮の映像を紹介しますので聴いてみてください。2楽章は11:15〜です。
今回のソリストはフランス人ピアニストのBertrand Chamayou、パリ高等音楽院で学んだ後、アルゲリッチや内田光子の師匠でもあるマリア・クルチオに師事。早くからコンサートで活躍している人です。
彼のピアノは、とにかくタッチが美しかったです。音の粒がピタっと揃ってきれいですし、柔らかな音色がとても素晴らしい。まさにモーツァルトを弾くのにうってつけという感じですね。技術に余裕があって、オーケストラとのやりとりを楽しみながら弾いているのが伝わってきて、聴いていて安心感があって心地よかったです。それに応えるようにオーケストラの演奏も素晴らしくて、特に木管がどれも良かったですね。
こんな雰囲気だから演奏する方もあまり集中できないんじゃないかと心配だったのですが、まったくそんなことはなかったです。むしろ聴いてるこちら側の集中力を試されてるような感じですね。
そして後半、ブルックナーの4番です。このブログではブルックナーは初登場ですが、なぜかというと僕がそれほど好きではないからです。理由は後述します。
演奏についてですが、まず挙げるべきはホルンですね。以前にもマーラー7番のときにパリ管のホルンを褒めちぎっていましたが、今回のホルンも素晴らしかったですね。ソロは音もフレージングもとても美しくて文句のつけようがなかったのですが、ホルンセクション全体も素晴らしかった。こんなホルンがいたら他の奏者も指揮者も楽しくて仕方ないだろうなあなんて想像してしまいます。
そして他の金管も全体的に良かったです。ブルックナーなので迫力が大事な場面が多いのですが、音圧でごまかすことなく、アンサンブルがビシっと決まっていましたね。まあここらへんがマエストロ・ブロムシュテットの力量なのかもしれませんが。その指揮者はなんと暗譜で振っていましたよ。いやはや信じられないですね、この人に年齢の衰えなんて存在しないのでしょうか。
ただ、弦と管のアンサンブルが複雑になる場面では、やや崩れる印象がありました。コンマス含む弦セクションが前のめりになることが多くて、「これ管の聞こえてないんじゃないかな」と思ってしまうようなところがありましたね。
そしてやはりというか、作品自体があまり面白くないですね。オーケストレーションや緩急の変化にあまり工夫が見られないですし、作品規模(長さ)に対して展開が十分ではないと僕は思ってしまいます。さすがにマーラーと比べるのが適切ではないとしても、例えばブラームスなんかと比べても展開の仕方や主題の魅力には相当な差があるなあと感じます。だいたいどれを聴いてもこういう感想になるので、あまり好きになれないというわけです。
先述した通り演奏そのものの質はとても高かったです。後半も演奏が緩むことなく集中度が高かったのですが、やはり問題は客の方で、こういう雰囲気だと聴く方の集中が切れやすいんですよね。ブルックナーの途中で帰る人もそこそこいましたし、なんでそんな場面で咳をぶちかませるのかまったく理解できない客も多かったです。日本にいた頃は「今日の客は良くないなー」と思うことも何度かあったのですが、こっちに来てみると日本の聴衆はまともだったんだなと思うことしきりです。
マエストロ・ブロムシュテット、どうかまだまだお元気で、また演奏が聴ける日を心待ちにしています。