【カルテット祭り】ダヴィッド・オイストラフ弦楽四重奏団 1/14@CdlM [7.0]

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2020年のパリで行われている第9回カルテットビエンナーレの特集記事です。前回はこちら。

【カルテット祭り】アルディッティ弦楽四重奏団 1/14@CdlM [5.0]
2020年のパリで行われている第9回カルテットビエンナーレの特集記事です。前回はこちら。 今回のカルテットはアルディッティ弦楽四重奏団(Arditti Quartet)です。1974年に現在もなおリーダーを務めるアーヴィン・アルディッティに...

 

今回のカルテットはダヴィッド・オイストラフ弦楽四重奏団David Oistrakh Quartet)です。2012年にロシアで結成。名前の由来はロシアの伝説的なヴァイオリニスト、オイストラフの遺族の了承を得て命名。そのオイストラフがエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝した75年後に、リーダーのアンドレイ・バラノフが同じコンクールで優勝しています。日本でもコンサートを行っており、CDもこれまでに2枚出しています。(公式HP

 

プログラム

 

1. ショスタコーヴィチ: 弦楽四重奏曲第4番
2. ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第3番
3. ショスタコーヴィチ: 弦楽四重奏曲第9番
4. バルトーク: ルーマニア民俗舞曲(弦楽四重奏編曲: Andrei Shishlov)

 

さすがロシアのカルテットということで、お国もの中心のプログラムです。まずはショスタコの4番。出だしを聴いただけでかなり良い印象です。このカルテットの魅力はまずファーストですね。ソリストらしい技術と輝きをもちながら、アンサンブルのリーダーとしての役割もきっちりこなす、理想的なファーストです。そしてヴィオラも良い。ショスタコはヴィオラが目立つ場面も多いのですが、ソロらしい弾きっぷりも良いですし、アンサンブルのいろんな役割を俊敏に切り替える様も見事でした。

前日にファインアーツカルテットのショスタコも聴いたわけですが、まあ音楽の質としては段違いと言わざるを得ないですね。やはりショスタコのカルテットは奥が深い。続いてベートーヴェンの初期作も良かったです。古典もきっちりこなせるのはもう既に明らかでしたが、やはりファーストがとても器用だなと感心します。これぐらい頼れるリーダーだと他のメンバーも楽しいでしょうね。

 

 

休憩明け、本日のメインはショスタコの9番です。僕がショスタコカルテットの中で一番好きな曲ですし、全カルテット作品の中でも相当上位に来るくらいの名曲だと思っています。以前にダネルカルテットの記事で、ショスタコの魅力は「諧謔性、熱量、瞑想」と書いたのですが、まさにその三本柱が全て味わえる作品だと思います。僕が初めて聴いたのはダネルカルテットが札幌でコンサートをしたときなんですが、あのときの衝撃は今でも忘れられません。これは是非一度聴いてみてください。全5楽章構成ですが、全てアタッカで繋がれていて、最後まで切れ目なく演奏します。

 

 

聴けばお分かりの通り、かなり演奏難易度が高いです。もちろんある程度技術があれば弾くことは出来るでしょうけれど、ただ弾くだけじゃ何の意味もない作品ですからね。この動画の演奏もとても頑張っているのですが、それでも物足りないところは結構あります。

それで実際の演奏ですが、ショスタコらしい演奏という点ではとても良かったです。ファーストは軽やかな弾きざまも熱量のある弾きざまも良かったのですが、それでも技術的にまだ難しそうだなと感じさせる場面がいくつかありました。あとはヴィオラはともかく、他の2人はやはり熱量でファーストに負けてしまっているので、そのアンバランスが一番気になりましたね。

 

そしてもう一つ、ピチカート(弓で弾かずに弦を指で弾くこと)ですね。これもダネルカルテットの記事で書いたと思って見返してみたら書いてなかったですね、すっかり書いたつもりでいたのですが。ダネルカルテットの魅力の一つはピチカートが全員やたらうまいことなんですよね。近代以降のカルテット作品ではピチカートが重要な作品がとても多いので、これが上手いかどうかは演奏の質に大きく響いてきます。ドビュッシーとラヴェルのカルテットも2楽章でピチカート主体の構成になってますよね。

先ほどの動画を見れば分かる通り、このショスタコの9番でもいくつかの大事なピチカートがあります。特に4楽章のセカンドとヴィオラのピチカートは本当に難しくて、実際の演奏でもそこが微妙でしたね。やはりこればかりはダネルの演奏を知ってしまった後だと物足りなく感じてしまいます。全体の演奏レベルは普通に比べれば断然高いのですが、それだけこの作品は難しいということです。

 

最後の作品はアンコールピースみたいなものですね。もともとバルトークのピアノ曲なのですが、それをカルテット版にアレンジしたものです。原曲は個人的な思い出があって、僕がピアノを習い始めて半年くらいした頃に、このルーマニア民俗舞曲を先生が弾かせてくれたんですよね。ヴァイオリンしか習ってない人だとバルトークに接する機会はほとんどない(バルトークはヴァイオリン作品を多く書いているのですが、技術教育的な作品じゃないのでほとんど取り扱わない一方で、ピアノは教育的なものが多い)ので、初めて聴いたときにはそりゃもう大変な衝撃でした。誰だって夢中になりますよバルトークの曲は。

で、実際の演奏ですが、編曲がいまいちでしたね。原曲のもつ和声の微妙な色合いが消えてしまってる箇所が多くて、そうなるとやる意味がなくなっちゃうなーと思うくらいです。最後の2曲も勢いで突っ走るみたいな感じでしたが、それは勿体なかったです。

 

 

アンコールにチャイコフスキーのアンダンテカンタービレ(弦楽四重奏曲第1番第2楽章)を弾いたあと、拍手がやまないのでもう1曲。ショスタコのポルカをやってくれました。カルテットのアンコールピースとしては結構有名で、まさにアンコールにふさわしいふざけた曲です。まあいくら説明するより聴いた方が早いでしょう。

 

 

面白い曲でしょう。ですが、彼らはこの動画よりもっと面白く演奏していましたね。なんてったって客席から終始笑い声が止まらないくらいでしたから。やはりそういうセンスがあるから面白いショスタコの演奏ができるんでしょうね。

色々書いてきましたが、カルテットグループとしてはとても魅力的だと思ったことは間違いないです。また日本に来て演奏してくれるでしょうし、僕も他の作品を聴いてみたいです。今後が楽しみなカルテットです。

 

次はこちら。

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