昨日に続き、INA-GRM(フランス国立視聴覚研究所・音楽研究グループ)のアクースモニウム(スピーカーオーケストラ)のコンサートに行ってきました。
3曲目以外は世界初演、INA-GRMの委嘱です。順に感想を書いていきます。
1. Roland Cahen (1958-) «Kinetic Design»
プログラムノートに「運動的な音楽についての研究」と書いてあるとおり、ワイドに縦横する風切り音のようなモチーフが主軸。密度が薄く、素材も限定的でかつ音高のないものばかりなので、かなり「モノクロ」な作品。中間部では巨人の足音のようなずんずん響くパーカッシブなモチーフに変わる。その後あからさまにシンセティックなドラムのシークエンスが出てくるが、脈絡がよくわからなかった。構成は弱くてだらけ気味だった。3.0。
2. Francisco Meirino (1975-) «A New Instability»
剣道の稽古風景の音にシンセシスを混ぜたようなシークエンスが延々と続く。ただそれだけ。仮にそういったバックグラウンド・シークエンスを使うとしても、その中に自由に動き回る音や、発展的な進行をする音があって初めて効果が出るのであって、それだけを垂れ流してもなんの面白みもない。下地を塗っただけのキャンパスのようなものだ(そういうのが作品として通用する時代はとっくに終わった)。
残念ながらこのエレクトロアコースティックというジャンルにはこういった傾向の作品が散見される。木曜日の日記に書いた語る価値のないコンサートもまさにこの傾向のもので、作ってる人間に本当にこれが面白いと思ってるのか本気で問い詰めてみたい。普段から自分は気に入らない演奏や作品のときは拍手しないが、これは自分以外も拍手してない人がそこそこいた。ナメた態度は素人相手だとしても伝わるものだ。0.5。
3. Catherine Bir (1945-) «La prière engloutie» (1967)
お経のような声素材にボウルを叩く音を混ぜたような序盤。その後展開していくのかなと思ったらそのまま素材の紹介のような感じで終わってしまった。音そのものは悪くなかっただけに残念。2.5。
4. Yôko Higashi & Lionel Marchetti (?) «Les oiseaux»
日本人女性とフランス人男性のコンビ。タイトルの通り、鳥の鳴き声をメインモチーフにした、静かでゆったりとした作品。序盤が音のグラデーションのように、少しずつ素材とその重ね方を変化させていく展開が良かった。中間部は変化を中断し、ハーモニックなシークエンスへ。音高のある素材の重ね方も悪くなかった。欲を言えばもっと色彩的な表現がほしいし、展開も予定調和のまま終わってしまったのが残念。とはいえ統一感があり、長時間に耐えうる構成だった点は良い。5.5。
5. Raphaël Mouterde (?) «tant que tu ne me tues pas»
タイトルは「君が僕を殺さないうちは」。冒頭は前の作品と真逆で、スピード感のある激しいモチーフで始まったので、落差がすごかった。序盤以降は女性の様々な声、鼻歌や歌唱、話し声、喘ぎ声が中心素材。性にまつわるテーマの作品なのでそういった声素材を使っている訳だが、自分もこれまで女性の喘ぎ声素材の作品はいくつか聴いてきたが、面白いと思ったものは一つもない。やはり文脈として用いるのではなく、喘ぎ声の音そのものに注目してアプローチしてほしいところ。4.0。
今日は隣の席に子供連れの人がいましたが、1曲目で退場しました。コンサート前のトークで「エレクトロアコースティックは小さい子供でも本能的に楽しめる」的な話をしていましたが、それは大嘘だと思ってます。そんな幻想は捨てて、むしろ「子供でも興味を引くような作品は実現できるのか」という視点で考えた方がいいでしょう。僕自身はそういう風に取り組んでいきたいですね。